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話者の言語哲学

日本語文化を彩るバリエーションとキャラクター

泉子・K・メイナード[著]

定価
5,060円(4,600円+税)
ISBN
978-4-87424-726-6 C3081
発売日
2017/3/31
判型
A5
ページ数
354頁
ジャンル
言語学・英語学 ― 社会言語学専門
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リアル書店在庫
紀伊國屋書店 丸善・ジュンク堂書店・文教堂

(著者まえがきより)
 筆者はここ数年、日本のポピュラーカルチャーのディスコースを中心に分析してきた。本書は、それら一連の研究を通して浮かび上がってきた「言語行為をする主体、つまり話者とは何か」というテーマを追うものである。分析にあたってキャラクターとキャラという概念を応用し、その言語使用をキャラクター・スピークとして日本語表・・・(全文を読む)現を分析する。より根本的には、考察の対象となるディスコースの言語現象から日本語における主体・話者という概念に迫り、ひいては言語行為をする私達自身を理解しようとする試みである。
 本書では、ライトノベル、ケータイ小説、テレビ・ラジオのトーク番組、テレビドラマ、少女マンガという五つのジャンルのデイスコースを分析の対象とする。特に焦点を当てるのは、言語のスタイルを含むバリエーションである。具体的には、会話分析で明らかになった会話行為やストラテジー、社会言語学や語用論のテーマである方言やジェンダーを想起させるバリエーションやそのシフト、談話研究のテーマと関連するモノローグやレトリックの綾、などの諸相である。本研究では、これらの言語表現が根源的には私達の自己表現や演出のツールとしてあり、話者がアクセスできるリソースに他ならないという見方をする。そして脱デカルト的視点のもと、言語行為を主体的にしかも状況や必要性に応じて使い分ける重層的なパフォーマンスとして理解し、話者をその複合性という概念で捉える。話者についての問いかけは、我、自己、自分という永遠の哲学的テーマに繋がっており、筆者はその探求態度を「話者の言語哲学」と名付けたい。

関連情報

目次
第1章 話者という根本問題と言語哲学
1.1 話者について問う意味:話者複合論へ
1.2 話す主体・私としての話者
1.3 言語哲学的アプローチの試み
1.4 言語哲学の手法
1.5 話者と言語の相対的関係
1.6 データ
1.7 本書の構成

第2章 西洋における主体と話者の捉え方
2.1 対立し続ける立場
2.2 言語学の動向と話者
2.3 話者の複雑性を論じる人類学
2.4 自己の概念を疑うポストモダン
2.5 認知科学における話者
2.6 社会言語学が明らかにする複数の話者

第3章 話者と日本の文脈
3.1 西田哲学:無の場所に現れる話者
3.2 宮沢賢治:明滅する自己
3.3 話者と相手の連関
3.4 複数の自己の心理
3.5 平野啓一郎:分人としての話者

第4章 キャラクター現象:キャラクターとキャラクター・スピーク
4.1 キャラクター現象
4.2 ポストモダンとポピュラーカルチャー
4.3 ポピュラーカルチャーにおけるキャラクターとキャラ
4.4 社会におけるキャラ現象
4.5 キャラクター・スピーク

第5章 日本語表現における主体・話者・話者複合論
5.1 陳述と潜在する主体
5.2 日本語談話論と話者
5.3 間主観性から話者複合論へ
5.4 キャラクターと話者複合論

第6章 ライトノベル:登場人物としての話者キャラクター
6.1 はじめに:ライトノベルにおける会話部分のキャラクター・スピーク
6.2 登場人物のキャラクター・スピークとキャラクター設定
6.3 ライトノベルのキャラクター設定
6.4 ツンデレキャラクターと話者複合性
6.5 キャラ提示と話者複合性
6.6 『ダーティペアの大征服』におけるキャラクターとキャラクター・スピーク

第7章 ケータイ小説:語りの方策と話者キャラクター
7.1 はじめに:ケータイ小説における語り部分のキャラクター・スピーク
7.2 語る私と語られる私の話者複合性
7.3 もうひとりの私の存在
7.4 心内会話と語りのキャラクター
7.5 バリエーションと語りの話者複合性
7.6 語りの演出とキャラクター・スピーク
7.7 語り手の登場とキャラクター・スピーク

第8章 トーク番組:おネエ言葉と話者複合性
8.1 はじめに:言語と性差
8.2 キャラクター・スピークとしてのおネエ言葉
8.3 マツコ・デラックスのキャラクター設定とキャラ提示
8.4 おネエ言葉を混用するエンターテイナー

第9章 テレビドラマ:フィクションとしての方言と話者複合性
9.1 はじめに:方言の変遷と方言ドラマ
9.2 『花子とアン』と『あまちゃん』
9.3 フィクションとしてのバリエーションと話者複合性
9.4 主要登場人物のキャラクター・スピーク
9.5 語りのキャラクター・ゾーン

第10章 少女マンガ:浮遊するモノローグとキャラクター
10.1 はじめに:少女マンガという世界
10.2 マンガの構造とモノローグ
10.3 マンガにおける話者の諸相と複合性
10.4 『僕等がいた』における七美のキャラクター・スピーク
10.5 『君に届け』における爽子のキャラクター・スピーク
10.6 マンガ家とキャラクター

第11章 話者複合論と日本語発の言語哲学
11.1 まとめ:キャラクター・スピークと複合的な話者
11.2 キャラクター・スピークとしてのバリエーションとキャラクター
11.3 空白の場所を埋める話者と話者複合論の可能性
11.4 日本の言語文化から発信する言語哲学
著者紹介
泉子・K・メイナード Senko K. Maynard(せんこ けい めいなーど)
 山梨県出身。AFS(アメリカン・フィールド・サービス)で米国に留学。甲府第一高等学校およびアイオワ州コーニング・ハイスクール卒業。東京外国語大学卒業後、再度渡米。1978年イリノイ大学シカゴ校より言語学修士号を、1980年ノースウェスタン大学より理論言語学博士号を取得。その後、ハワイ大学、コネチカット・カレッジ、ハーバード大学、プリンストン大学で教鞭をとる。現在、ニュージャージー州立ラトガース大学教授(Distinguished Professor of Japanese Language and Linguistics)。会話分析、談話分析、感情と言語理論、語用論、マルチジャンル分析、創造と言語論、ポピュラーカルチャー言語文化論、言語哲学、日本語教育などの分野において、日本語、英語による論文、著書多数。

主要著書
『情意の言語学 「場交渉論」と日本語表現のパトス』2000くろしお出版
『談話言語学 日本語のディスコースを創造する構成・レトリック・ストラテジーの研究』2004くろしお出版
『マルチジャンル談話論 間ジャンル性と意味の創造』2008くろしお出版
『ライトノベル表現論 会話・創造・遊びのディスコースの考察』2012明治書院
『ケータイ小説語考 私語りの会話体文章を探る』2014明治書院
Principles of Japanese Discourse: A Handbook. 1998. Cambridge, England: Cambridge University Press.
Linguistic Creativity in Japanese Discourse: Exploring the Multiplicity of Self, Perspective, and Voice. 2007. Amsterdam: John Benjamins.
Learning Japanese for Real: A Guide to Grammar, Use, and Genres of the Nihongo World. 2011. Honolulu: University of Hawai‘i Press.
Fluid Orality in the Discourse of Japanese Popular Culture. 2016. Amsterdam: John Benjamins.