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近刊

日本語の習得と習得支援を考える

真にプロフェッショナルな日本語教育の創造をめざして

西口光一[著]

定価
2,860円(2,600円+税)
ISBN
978-4-8011-1023-6 C3081
発売日
2025/11/25
判型
A5
ページ数
194頁
ジャンル
日本語教育 ― 日本語教師参考書
オンライン書店
amazon 楽天ブックス 紀伊國屋書店 丸善ジュンク堂書店  e-hon 

筆者は45年以上にわたり日本語教育の現場に携わり、理論的根拠に基づく教育を実践してきた。本書はその経験と、言語・自己・コミュニケーションの本質に迫る探究を通して得た、日本語習得と習得支援の理論的視座を論じる。日本語教育への理解が深まり、授業への向き合い方が変わる。

■「はじめに」より
筆者は45年以上日本語教育の現場で仕事を・・・(全文を読む)してきました。そして、筆者なりの物の見方と理論的根拠に基づいて、日本語教育を企画し、教材・リソースを制作して提供し、同僚教師とそれらを共有して、大部分の学習者が設定された目標を達成する教育を実践してきました。そして、一方で、日本語学や社会言語学や第二言語習得研究などに留まらず、心理学、社会学、文化人類学、言語哲学などの分野に分け入り、そもそも言語とは何か、自己とは何か、人が言葉を発するとはどういうことか、なぜ人と人はコミュニケーションできるのかなどの根本的な問いを探究してきました。そうした探究をするのは、日本語教育は日本語の文型・文法や語彙や実用的コミュニケーションのための表現などをただ教え学ばせることではないと考えるからです。また、そうした深みにまで足を踏み入れてこそ、何をどのようにすれば学習者において日本語の習得や上達を促進できるかの理論的根拠を深みと厚みのある形で示すことができると考えたからです。
本書では、そんな筆者がもっている、日本語の習得と習得支援をめぐる物の見方やその理論的根拠について論じたいと思います。本書は、日本語の教授法や指導法などを紹介する本ではありませんが、本書を読むことで、日本語の習得と上達の見え方や、日本語の習得・上達支援のあり様の見方が変わり、現在及び将来のあなたの授業の計画や授業の実践が大きく変わるでしょう。

関連情報

目次
目 次

イントロダクション
日本語教育の概略的俯瞰と問題意識
1. われわれの仕事は日本語を教えることか
2. 素朴な日本語教育
3. 素朴な日本語教育でよいか
4. コミュニカティブ・アプローチと行動中心のアプローチ
5. 発話と人格
6. 日本語教育の参照枠における実用的なコミュニケーション偏重
7. 人格中心の日本語教育
8. 習得支援としての日本語教育
9. 本書の概略

第1部 理論編 言語の習得と習得支援を考える
第1章バフチンとヴィゴツキーから学ぶ ─ 対話、言語的思考、発話 ─
1. 言語の言語観から対話原理へ
2. 対話原理の基盤的視点
3. 対話性
4. 発話のいくつかの側面
5. 言語活動従事と言語的思考 
6. 新たな言語の習得のための言語促進活動
7. むすび ─ 言語促進活動を豊富に提供する教育企画の重要性

第2章 習得支援としての言語教育の一例─ 自己表現活動中心の基礎日本語教育 ─
1. 自己表現の日本語教育の教育目標について
2. 各ユニットでの日本語習得の考え方
3. 表現活動の日本語力、会話力、発話の柔軟性
4. むすび

第2部 政策編 CFERと日本語教育の参照枠
第3章 日本語教育の参照枠について
1. 日本語教育の参照枠の作成の経緯
2. 日本語教育の参照枠とは何か
3. 日本語教育の参照枠
4. 考察

第4章 CEFRが提唱するアプローチと新たな日本語教育の構想
1. CEFRの背景と趣旨
2. CEFRのねらい
3. 行動中心のアプローチの具体化
4. 行動中心のアプローチと日本語教育
5. 日本語教育を構想するにあたっての行動中心のアプローチからの示唆
6. 結び

第3部 評論編 習得支援のための日本語教育の創造に向けた諸テーマ
第5章 日本語習得の不利な条件 ─ 他人言語の学習 ─
1. 兄弟言語と他人言語
2. 第一言語と新たに身につけようとする言語との距離による習得困難度の違い
3. 他人言語習得の困難
4. 直接法もコミュニカティブ・アプローチもすべて欧米発祥の言語教育法
5. 結び ─ CEFRと日本語教育の参照枠

第6章
日本語習得の有利な条件─ 日本語には文法らしい文法はほとんどない ─
1. 文法とは何か
2. 文法がない日本語と文法がある英語
3. 日本語には形式上の操作という意味での文法はほとんどない
4. 結び ─ 語法

第7章 言語教育を考えるにあたっての基本的な眺望─ 言語技能の形成から言語の直接的なオペレーションへ ─
1. 知識習得の側面と知識適用の側面
2. 基礎日本語力
3. 翻訳のオペレーション
4. 結び ─ 直接的なオペレーションの重要性

第8章 なぜいい授業ができないのか─ 教育企画の重要性 ─
1. 教育実践の脈絡
2. つきまとう授業の脈絡
3. 言語促進活動
4. 優れた教育実践の構成要因
5. 教育企画という課題
6. 結び

第9章 コーディネータの立場と役割と責任
1. コーディネータの仕事
2. コーディネータの役割と責任
3. 結び ─ 学習者に対する責任と先生たちに関する責任

第10章 教育企画と教科書と教育実践
1. (a)から(d)の順でいけるか
2. 既存の教材と自分なりの教材
3. 教育企画と教材制作
4. 結び ─ 教育の変革

第11章 「わたし」に根ざした言葉の習得と習得支援
1. 用件の達成に奉仕する言葉と「わたし」に根ざした言葉
2. 話題をめぐる対面的な相互行為と発話
3. 意味を豊かに湛えた「わたし」に根ざした言葉
4. 教室という状況
5. ロールプレイなどで交わされる言葉
6. 「わたし」に根ざした言葉が動き出す状況
7. 自己表現活動中心の基礎日本語教育
8. 結び ─ マスターテクスト・アプローチの中の言語事項

第12章 言語知識と運用能力をめぐって─ 明示的知識と隠在的知識の問題 ─
1. 「学生たちは文型・文法事項や語彙を知っている」「既習の言語知識」 ─ 明示的知識の問題
2. 「話せない、使えない」、「運用能力に結びついていない」 ─ 運用能力という見方の問題
3. 明示的知識と隠在的知識
4. 言語活動従事を直接に支える言葉遣いという隠在的知識
5. 結び ─ 言語技能の訓練ではなく言語技量の育成を

第13章 シャドーイングのキモは疑似的な発話経験
1. 演劇的指導となぞり語り
2. なぞり語りの指導
3. シャドーイングの有効性 
4. 結び

第14章 言語教育における主体的学び─ 主体的学びではなく、主体的言語活動従事が重要 ─
1. 内容の学びにおける主体的学び
2. 学校での英語の学びの形態と主体的学び
3. 本来の言語の学び
4. 言語の学びにおける主体性
5. 結び ─ 主体的で能動的な学びを実現する条件
著者紹介
西口光一(にしぐち こういち)
大阪大学名誉教授。広島大学森戸国際高等教育学院特命教授。
博士(言語文化学)。公益社団法人日本語教育学会会長。
専門は日本語教育学、言語哲学、ことば学。著書に、『第二言語教育におけるバフチン的視点 ─ 第二言語教育学の基盤として』、『『新次元の日本語教育の理論と企画と実践 ─ 第二言語教育学と表現活動中心のアプローチ』(以上、くろしお出版)、『第二言語教育のためのことば学 ─ 人文・社会科学から読み解く対話論的な言語観』、『メルロ=ポンティの言語論のエッセンス ─ 身体性の哲学、オートポイエーシス、対話原理』(以上、福村出版)など。日本語教科書として、『NEJ:A New Approach to Elementary Japanese ─ テーマで学ぶ基礎日本語』、『NIJ:A New Approach to Intermediate Japanese ─ テーマで学ぶ中級日本語』(以上、くろしお出版)、『みんなの日本語初級 漢字』(スリーエーネットワーク)、『新装版基礎日本語文法教本』(アルク)など。