日本語のディスコースと意味

日本語のディスコースと意味

概念化とフレームの意味論

渡部学[著]

定価
4,620円(4,200円+税)
ISBN
978-4-87424-660-3 C3081
発売日
2015/6/3
判型
A5
ページ数
328頁
ジャンル
日本語学 ― 日本語学専門
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名詞や文など,様々なレベルの言語表現の意味について,認知言語学の「概念化」「フレーム」の概念や,その礎となった脳神経学をふまえ考察する。記述文法に精通した著者が日本語の記述と理論を両立してまとめた意欲的研究書。

関連情報
【誤植・修正】
第1刷について、以下のとおり誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

■235ページ 図4.4:図の修正
「作用領域が隣接的な場合」と「作用領域が非隣接的な場合」は、「言語表現の出現順に互換性のない場合」の下位項目となります。

■275ページ5~8行目
(誤)
背景には、言語的に表現された以外の可能な前件の候補が(誤って)排除されてしまうからだと説明できる。

(正)
背景には,言語的に表現された以外の可能な前件の候補が(誤って)排除されてしまう性格があるからだと説明できる。
目次
第1章  ことばでつむぐコミュニケーション

1.ディスコースと言語表現
 1.1 ディスコースとは
 1.2 ディスコースの媒体
 1.3 ディスコースの形態
 1.4 ディスコースとコミュニケーション機器
 1.5 文体
2.ディスコースと言語表現
 2.1 言語表現と文脈
 2.2 文脈の種類
  2.2.1 現場文脈
  2.2.2 言語文脈
  2.2.3 記憶文脈
  2.2.4 文脈,概念化
3.脳,認知,そして言語(本書の立場)
 3.1 心と脳
  3.1.1 ミラー・ニューロン(mirror neurons)
  3.1.2 マテリアル・アンカー(material anchor)
  3.1.3 意識
 3.2 概念化(conceptualization)
  3.2.1 捉え方(construal)
  3.2.2 身体化(embodiment)
  3.2.3 超身体化(disembodiment)
 3.3 概念者(conceptualizer)
  3.3.1 概念者と言語表現
  3.3.2 概念者と時間
  3.3.3 概念者と意識
 3.4 概念化とフレーム 本書の「表記法」
  3.4.1 概念化(conceptualization)
  3.4.2 フレーム(frame)
 3.5 概念化と本書の「表記法」のまとめ

第2章 指示 「世界」のパーツの捉え方・言語と「世界」のインターフェイス

1.ことばの「指さし」
 1.1 指示とは
 1.2 指示のバーチャル性
 1.3 指示の心的操作性
  1.3.1 空間から切り出される指示対象
  1.3.2 時から切り出される指示対象
2.指示性
 2.1 言語表現と指示性
 2.2 一般化された指示対象(般称),個別化・特定化された指示対象
  2.2.1 一般化された指示対象
  2.2.2 個別化・特定化された指示対象
 2.3 同定性
  2.3.1 現場文脈を参照した同定
  2.3.2 言語文脈を参照した同定
  2.3.3 記憶文脈を参照した同定
3.指示とフレーム
 3.1 フレームの構造と本書での表記
 3.2 日本語の裸の普通名詞による指示とさまざまなフレーム
  3.2.1 人や物の物理的な構造に関するフレーム
  3.2.2 出来事の構造に関するフレーム
  3.2.3 産出に関するフレーム
  3.2.4 関係と名称に関するフレーム
  3.2.5 同定性とフレームの強さ
 3.3 メトニミー(metonymy)による指示とさまざまなフレーム
  3.3.1 人や物の物理的な構造に関するフレーム
  3.3.2 出来事の構造に関するフレーム
  3.3.3 産出に関するフレーム
  3.3.4 名称に関するフレーム
 3.4 取り立て助詞の働きとさまざまなフレーム
  3.4.1 1つの要素しか持たないフレーム
  3.4.2 複数の要素を持つフレーム
  3.4.3 対比されるフレーム
4.指示と記憶
 4.1 ディスコースと作業記憶
  4.1.1 作業記憶と言語表現
  4.1.2 作業記憶と指示表現を伴う言語表現
  4.1.3 作業記憶とコ系の言語表現の特徴(検索範囲)
  4.1.4 作業記憶とコ系の言語表現の特徴(ディスコースとの関係)
 4.2 意味記憶(フレーム)
  4.2.1 既出の指示対象とフレーム
  4.2.2 ソ系の言語表現とフレーム内の既出の指示対象
  4.2.3 ソ系の言語表現と既出のフレーム内の新出の指示対象
  4.2.4 ソ系の言語表現と値の不明な指示対象
 4.3 エピソード記憶
  4.3.1 エピソード記憶とア系の言語表現
  4.3.2 エピソード記憶と日本語の固有名詞・代名詞
  4.3.3 エピソード記憶とその所有者
5.指示と概念化
 5.1 既出の指示対象とさまざまな言語表現
 5.2 既出の指示対象と指示表現
 5.3 指示表現を含む慣用的な言語表現

第3章 事態とその概念化素材  「世界」の捉え方・「世界」の切り出し方

1.事態を描き出すための言語装置
 1.1 事態とは
 1.2 格
 1.3 ヴォイス
2.事態と他動性
 2.1 生物学的な自動行為・他動行為
 2.2 言語的な自動性・他動性
 2.3 生物学的な自動行為・他動行為と言語的な自動性・他動性との異同
  2.3.1 生物学的な自動行為と言語表現
  2.3.2 生物学的な他動行為と言語表現
  2.3.3 事態と分析的な「を」格
3.事態とフレーム
 3.1 構成性(compositionality)と述語の意味
  3.1.1 構成性(compositionality)
  3.1.2 述語の1次的な意味,より高次の意味
 3.2 述語と意味 ケース・スタディ
  3.2.1 「まわる/まわす」
  3.2.2 「うつ」
  3.2.3 概念化,捉え方,言語表現
 3.3 概念化のタイプとフレーム
  3.3.1 仮想空間へのマッピングを伴う概念化
  3.3.2 フレームの読み込みを伴う概念化
  3.3.3 ハイブリッド型の概念化
  3.3.4 概念化とフレーム
 3.4 組み立てのタイプとフレーム
  3.4.1 写実的な言語表現
  3.4.2 産出系の言語表現
 3.5 捉え方の転回と言語表現
  3.5.1 述語の捉え方の転回
  3.5.2 「まわる/まわす」の転回と意味ネットワーク
  3.5.3 「うつ」の転回と意味ネットワーク
 3.6 フレームを表すその他の言語表現
  3.6.1 内の関係の連体修飾節
  3.6.2 外の関係の連体修飾節
  3.6.3 フレーム名詞
  3.6.4 取り立て助詞
 3.7 構成性(compositionality),フレーム,慣用表現
  3.7.1 述語の1次的な意味と構成性
  3.7.2 述語の高次の意味と構成性
  3.7.3 慣用表現と構成性
4.事態と概念者
 4.1 事態の中の概念者
 4.2 文型と概念者
  4.2.1 ヴォイスとやりもらい
  4.2.2 背景化
  4.2.3 前景化
  4.2.4 文型から見た概念者
 4.3 概念者の中の「世界」
  4.3.1 概念者の感覚を表す言語表現
  4.3.2 現象文
  4.3.3 概念者の判断を表す言語表現(認識のモダリティー)
  4.3.4 概念者の知覚・思考を表す言語表現
  4.3.5 自発
  4.3.6 概念者の一瞬を切り取った事態
 4.4 概念化を描く言語表現

第4章 接続 事態の関係の捉え方・「世界」の並べ方

1.接続
 1.1 接続とは
 1.2 形から見た文の接続
  1.2.1 縦型の接続
  1.2.2 横型の接続(複文)
  1.2.3 横型の接続(単文)
  1.2.4 日本語の文の接続
 1.3 ディスコースの進め方と接続の概念化
  1.3.1 概念者のディスコース・プランを基盤とする接続
  1.3.2 事象の内在的な性質を基盤とする接続
2.事象の生起順を基盤とする接続
 2.1 事象の生起順を基盤とする接続(継起)
 2.2 継起式の接続と概念者の認識・知覚の働き
3.事象の因果関係を基盤とする接続
 3.1 条件文
 3.2 理由文
 3.3 譲歩文
 3.4 疑似条件文
4.架空の世界を基盤とする接続
 4.1 反事実条件文
 4.2 推論否定の逆接
 4.3 反事実条件文と推論否定の逆接との接点
5.誘導推論とフレーム
 5.1 誘導推論(条件文の場合)
 5.2 誘導推論(反事実条件文の場合)
6.言語化されない接続
 6.1 後件が言語化されない場合(LE(P)C)
 6.2 前件が言語化されない場合(C LE(Q))
 6.3 前件も後件も言語化されない場合(C)
7.共話
 7.1 共話とは
 7.2 ディスコース・プランを基盤とする共話
 7.3 事象の内在的な性質を基盤とする共話
 7.4 共話と概念者

補説 脳の仕組みと働き 

1.脳の部位
 1.1 後頭葉(the occipital lobes)
 1.2 頭頂葉(the parietal lobes)
 1.3 側頭葉(the temporal lobes)と大脳辺縁系(the limbic system)
 1.4 前頭葉(the frontal lobes)
2.脳と脳神経系
 2.1 ニューロン(neuron)
 2.2 シナプス(synapse)
 2.3 ニューロンの活動
著者紹介
渡部 学(わたなべ まなぶ)
1962年秋田県生まれ。秋田大学教育学部英語科卒業。大阪大学大学院文学研究科日本学専攻博士後期課程単位取得退学。1998年ハワイ大学大学院言語学科より言語学でPh.D.取得。専門は認知言語学・意味論。ミネソタ州立大学機構秋田校,ハワイ大学マノア校,シンガポール国立大学を経て帰国。帰国後は,富山大学,富山県立大学,福島大学で教え,現在は東北大学及び東北学院大学で非常勤講師(英語・日本語学)。アルストロムアンドアソシエイツ有限会社(秋田市)顧問。
 著書に『辞書を引いてもうまく訳せない人のための英単語イメージノート』(ベレ出版 2010),共著に「現代日本語文法第2巻」(くろしお出版 2009)「現代日本語文法第7巻」(くろしお出版 2009)