イベント(日本語教材)

オンラインセミナー:『留学生のための 考えを伝え合うプレゼンテーション』 ―留学生にとって難しいこと&その指導―

講師: 仁科浩美 先生(山形大学学術研究院 准教授)
日時: 2021年3月20日(土) 14:00 - 15:30
場所: オンライン

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【2021/03/30 開催レポート掲載】

こちらのセミナーは終了しました。
お申し込み・ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

●講師からのコメント

セミナーにご参加くださり、ありがとうございました。事前アンケートや当日の意見交換の様子から、プレゼン指導に対する皆様の熱い思いが伝わってきました。プレゼンのメインとなる発表部分だけでなく、質疑応答にも問題意識を持っていただくことができ、仲間が増えたように感じました。また情報交換等できたらと思います。

●発表資料

PDF形式で公開します。下記リンクからご覧ください。
発表資料 >

※無断での転載や頒布はしないでください。
※セミナーで使用したものから変更になっている箇所があります。

●お寄せいただいた質問と、講師からの回答

Q:質疑応答を取り入れようと思っても、なかなか学生が積極的に質問やコメントをしない場合、どういった対処法や練習方法が考えられるでしょうか。
A:ご質問、ありがとうございます。例えばですが、内容そのものに関する質問・コメントと、発表の仕方に関する質問・コメントの2つのパートに分けると、1回は声を出して何か言えると思います。また、内容そのものについては、その場で聞いただけではわかりにくいと思いますので、スライド資料やレジュメを手元に配付するといったことも質問する聞き手には役に立つと思います。
押さえどころがわからないと発表全体を聞いても質問はできないでしょうから、慣れないうちは小分けにして、「今日は図の結果とそこから考えたことを話してもらいますので、聞いている人はわからなかったところ、疑問に思ったところを質問してみましょう」といったように、ポイントを絞って質問する時間を作るのもよいかもしれません。

Q:質問者のマナーやコメント/質問の出し方なども教材に加えるのはどうでしょうか。
A:コメント、ありがとうございます。確かに質問者についてもマナーや、簡潔な質問の仕方について練習が必要ですね。第3課や第11課などで扱っています。参考にしていただければと思います。

Q:質問者と発表者の日本語のレベル差が大きくて、どちらかが消化不良になってしまうことが多々ありますが、その場合の対処方法をもう少し詳しく教えていただきたいです。
A:内容について知識があり準備してきた発表者と、その場で発表を聞く学生とはどうしても差が出てしまいますし、専門的な内容になればなるほどその差は顕著になってくると思われます(程度の差はあれ、日本人同士でも同じですね)。大事なのは、指導の目的がどこにあるかだと思います。例えば、発表の目的が、クラスメートの専門を互いに理解し合うといったようなことであれば、相手に伝わる平易な言葉でかみ砕いて言わなければなりません(少し話はずれますが、「学校で勉強・研究していること」は就職活動や奨学金選考でよく質問されるもので、専門外の人にもわかってもらえる説明力(専門的な内容をより平易に)は身につけておく必要があると思っています)。一方、より専門を意識した発表では、専門に関する語彙や内容が聞き手にはついていけない場合が出てくるでしょうが、発表者にとっては学習目標に近づいた発表となるわけですから、これはやむを得ないことで、発表者の達成度をより重視して進めるほうが大切であるように思います。質問が出ない場合は、先生が代わりに質問をするのも一つでしょう。内容が難しい場合、聞き手の学生には、より簡単な説明や具体例を求める質問や、発表そのものについてコメントをすることで参加してもらうのはどうでしょうか。

Q:現在の日本人大学生のプレゼン能力は、どの程度なんでしょうか?
こちらで取り上げられている内容は留学生だけが学ぶべきものではないような気がするのですが…。

A:コメント、ありがとうございます。おっしゃるとおりです。アカデミック・プレゼンの作法を知るという点や、対人関係が絡む場合の対応についての日本語表現は日本人学生にも学んでもらえるところが多いと思います。実際、日本人学生を相手に教えている知り合いからは「うちの学生にも学んでほしいことばかり。使わせます」という声をいただきました。

Q:本書p.97 タスク1質問(4)の「グローカリゼーション」ということばが理解できない場合ですが、例えば、質問者がその言葉を説明することで発表者質問者お互いにその理解にたどり着くまでの時間を要してしまい脱線してしまった場合、教師はどのようにファシリテートしていけばいいでしょうか。
A:拙著の第13課で対応のいくつかの例を示しましたが、質疑応答は限られた時間の中でやりとりしなければならないのが一つの特徴です。脱線した状況を認識させ、どうすればよかったのか、いくつかの可能性を皆で考えるのも一つかと思います。また、発表者がどのような対応方法をとるかは、拙著第13課も参考になるかもしれません。

Q:指導上の具体的なエピソードをもっとお聞きしてみたかったです。また、この教材を使用して得られた効果についてのお話も興味があります。
A:この本に取り上げてよかったと思うものについて一つ。本の中で、質問時によく使われる前置き表現として「この問題については素人なんですけど」「少し的外れな質問かもしれませんが」などを紹介しているのですが、これを見たとき、ある留学生から「今までなんか言っていると思っていたけれど、よく聞こえていませんでした。たぶんこれかも。今、わかりました。」と言われました。このフレーズがわからず、固まってしまう人もいるので、言い訳のような前置き表現ということがわかっていることも大切だと思います。

教えたことが少しは役に立っているかなと思うのは、学生が私の手を離れた実践の場できちんと使えているのを見たときです。実際の専攻での中間発表や卒業発表で、学習したこと(例 「それは〇〇ということでよろしいでしょうか」など相手の意図をしっかり確認した後、質問に対する回答を的確に回答していたり、借用した図表にきちんと適切に出典を記載しているなど)を使って、対応できているのを見ると、学生の成長を感じます。

Q:この教材を使った学習者の伸びや反応
A:一つ前の質問でお答えした他の活用成功例としては、学習後、質疑応答の時間に沈黙する留学生はあまり見られないように思います。わからない場合は「勉強不足で申し訳ありません。次回まで考えてきます」「今回はそこまでできませんでした。」等と自分の状況を説明して、以前よりはその時間をうまくマネジメントできるようになったと思います。また、授業を履修後、専門で口頭発表を行わねばならない際に、拙著の付録部分を読んで参考にし、無事乗り切ることができたという報告をしに来てくれた留学生もいました。

Q:今日のブレイクアウトルームで自分は日本語ネイティブじゃないことを逆手に取り、できないから簡単に質問してもらえないかと言ってしまうのはどうかと言うのが出ました。なるほどと思いましたが、このようなストラテジィがありましたら、教えていただきたいです。(日本語を磨くことにはなりませんが、生きていくために)
A:回答になっていないかもしれませんが、一般によく紹介されている「もう一度お願いします」は「そんなに何回も繰り返して言えない」「2回以上は無理」と発表経験のある留学生が言っていました。相手が語ったことの一部がわからない場合は、拙著の12課で少し触れていますが、「グロ・・・というのがわからないのですが」といったりするのも一つだと思います。また回答する際、日本語では困難と思った場合、留学生という特権を生かし、相手が英語がわかるなら、「日本語では説明できないので、英語でもいいでしょうか」というのもアリだと思います。「簡単に言ってもらえないか」はなるほどと思える返しですが、一方で、「簡単な説明」の理解が相手によってまちまちで、場合によっては余計に複雑になったり、話が長くなったり、英語が苦手な学生に急に英語での説明が始まったりするので、注意も必要です。

Q:ブレークアウトルームの参加者の中から、質問への返し方(本書p.98 タスク1質問(5)の質問の意味がわからない場合)によっては、質問者の自論を延々と述べられマイクを取られることがあるという話を伺いました。そのような注意点についても、よろしければお聞かせください。
A:確かにありますね。司会者がいる場合は、司会の方がうまくコントロールしてくれることを期待したいですが、質問者が立場が上の場合は、留学生にはなす術がないのが現実だと思います。質問する側にも簡潔な質問を求めたいところです。

Q:ご紹介いただいた教科書が全体のカリキュラムの中の、どんな位置付けのクラスで使われているのか、など教えていただきたかったです。
A:説明不足で申し訳ありません。私が担当している工学系のキャンパスでは、課外補講コースの中の1科目としてこの授業が位置づけられています。コースのレベルは4つ(入門・初級・中級・上級)で、各レベル2科目(総合科目・スキル重視科目)提供しています。このクラスは最も上のレベルで、発表スキルを学習しています。その他、このコースとは別に就職を目指したビジネス日本語科目もあります。

Q:学生の質問力を高めるために、授業の中でどのような練習をすればよいか知りたい。
A:質問したいと思うには、その内容について関心があることや、クリティカルに考えられることなどが必要で、さらに日本語学習者には日本語で表現できることが求められると思います。アカデミック・プレゼンについては、研究を構成する要素(研究目的、先行研究、研究方法、結果・考察等)の押さえ所を知ることが質問力につながると思います。簡単な練習例としては、拙著第5課で扱っている調査・実験の方法を誰かが話したときに、述べるべき事柄が含まれているかどうか見極めるような練習が考えられます。さらには、第6課、7課で扱ったように、結果からある考察に至った際、それは他者にとっても納得がいくものなのか意見を交わす練習などがあるかと思います。

Q:「考えを伝えあう」の部分がよくわかりませんでした。授業での様子などを踏まえて教えていただけたらと思います。
このテキストを使用し、オンラインで行う授業の場合に、どのような工夫が必要かなどの情報をいただけると助かります。

A:十分に説明できておらず、申し訳ありません。「考えを伝え合う」ということを出した背景には、「人が考えていることは人それぞれ」という私の考えがあります。平田オリザ氏が「日本語教育と国語教育をつなぐ「対話」」(2012、『対話とプロフィシェンシー プロフィシェンシーを育てる2』鎌田修・嶋田和子編著、凡人社、2012)や、『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』(講談社、2012)で述べているように、グローバル化により多様な社会となった日本において、従来の「分かり合う文化」一辺倒では不十分であり、これも大切にしつつ、「説明し合う文化」を充実させることも重要になってきています。同じ日本語を話していても、日本人と留学生では、日本人同士以上に話していることの意図や考えていることがよくわからないことがあります。そんなとき、分かり合うために、考えを伝え合う互いの姿勢が非常に大切になると思っています。その意識を養う一助となればという思いがこの本にはあります。
一つ具体例を挙げると、今回のセミナーの質疑応答の時間、最初に質問してくださった方と私とのQ&Aは、日本人同士の対話でしたが、最初かみ合っていませんでした。そのとき、私の答えを聞いて、質問者の方が「二つの内容を一つにして聞いてしまったようだ」とおっしゃって、さらに説明を加えてくださいました。これにより、私の次の回答は軌道修正されたように思いました。このように、人と人が対話を行う場合、自分がイメージしていることと相手のそれとは異なることがよくありますし、思ったようにやりとりが進まないことも往々にしてありますが、分かり合うためには面倒がらずに伝え合うことが必要だと考えます。拙著では、各課に置いたタスクを通しての練習と、実際にテーマに基づき発表する場面での練習との2つのタイプの練習で、考えを伝え合う練習ができるように設計したつもりです。
ご理解いただけたでしょうか。

このテキストを使用し、オンラインで行う授業については、私も現在、試行錯誤中です。Zoomですと、録画したものを本人にすぐに送れたり、視聴の際にZoomの画面上で簡単にスライド共有ができる点は便利だと思いました。個人で考えたことをグループで意見交換し合うのも今回のセミナーのように行えば可能だと思います。ただ、この授業に限らず、個人作業で書いてもらう活動については教師側が把握しにくいのが難点です。また、発表時、Zoomなどでスライドを共有してしまうと、スライドそのものは見やすいのですが、発表者は聞き手と同じサイズの枠に収まってしまいますし、アイコンタクトは対面のようにはできません。
オンラインでの発表ということに関しては、2021.3.16にオンラインで行われた第56回日本語教育方法研究会で「JLEM:オンラインでの効果的なポスター発表方法検討のための試行」(中川・河野)という発表もありました。オンラインでの授業については分野を問わず2020年に初めて経験した教育関係者が多いと思います。教師自身のスキルを高めるとともに、情報取集していく必要がありそうです。

開催情報

『留学生のための 考えを伝え合うプレゼンテーション』
―留学生にとって難しいこと&その指導 ―

【2021/03/03 更新】
お申し込みが定員に達したため、受け付けを終了しました。

■会場 オンライン上Zoom会議室
■日時 2021年3月20日(土・祝)14:00 – 15:30(日本時間)

■対象者
日本語教師、大学教員(留学生担当)など

■講師
仁科浩美 先生(山形大学学術研究院 准教授・大学院理工学研究科国際交流センター主担当)
東北大学大学院文学研究科博士課程前期修了、修士(文学)。東北大学大学院文学研究科博士課程後期修了、博士(文学)。
著書:『改訂版 大学・大学院留学生の日本語③論文読解編』アルク(共著)、『アカデミック・ライティングのためのパラフレーズ演習』スリーエーネットワーク(共著)他

●講師から
大学においてプレゼンテーションの機会は数多くありますが、留学生のプレゼンの中には、時折、アカデミック・プレゼンテーションというにはまだまだ…というものを目にします。今回は、留学生にとってどのような点が難しいのか、どうすれば聞き手に伝わるプレゼンになるのか、日本語教師の視点で考えてみたいと思います。

■参加費 無料
■定員 70名(先着申込)

■予定内容
・アカデミック・プレゼンテーションにおける留学生の問題
・学習者目線で実際に教材をやってみよう
・質疑応答・意見交換とまとめ

■本セミナー関連教材
※教材をご購入いただかなくても、ご参加可能です。
『留学生のための考えを伝え合うプレゼンテーション』くろしお出版,2020