学会・研究会情報(小社イベント)

オンライン ワークショップ(追加開催):日本語教師のためのシャドーイング指導 ―「わかる」を「できる」に繋ぐために―

日程: 2020年10月17日(土)
場所: オンライン

【2020/10/26 開催レポートを追記】

こちらのワークショップは終了しました。
お申し込み・ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

▼ページ内リンク
講師からのコメント
発表資料
お寄せいただいた質問と、講師からの回答
開催情報

●講師からのコメント

迫田久美子 先生
セミナーを通して、シャドーイングに関心を持って、試行錯誤している方々が大勢いらっしゃることがわかり、私たちも大いに刺激を受けました。当日やアンケートに寄せられた質問から、「より多様なニーズに対応したシャドーイングの実践方法を探る」という新たな課題ができました!これからも一歩ずつ頑張りましょう!
古本裕美 先生
このたびは本ワークショップにお申し込みいただき、ありがとうございました。参加動機を拝見すると、既にシャドーイングを授業に取り入れている方、お勤め先で取り入れるように言われているけどなんだか不安な方など、仲間は世界中にいるようです。またどこかでお互いの実践を語り合える日が来ることを願っています。
リード真澄 先生
シャドーイングのワークショップにご参加頂き、有難うございました。学習者の日本語を効果的に上達させるため、日夜努力を重ねていらっしゃる先生方のお気持ちが伝わって来るように感じました。シャドーイングがそのための手段の一つとして、先生方にも学習者の皆さんにも楽しんで頂けたら、大変嬉しく存じます。


●発表資料

PDF形式で公開します。下記リンクからそれぞれご覧ください。

なぜシャドーイングがいいのか?(迫田先生)
対面授業ではどう活用するのか?(リード先生)
オンライン授業ではどう活用するのか?(古本先生)

※一部、ワークショップ開催時から変更になっている箇所もあります
※無断での転載や頒布はしないでください

●お寄せいただいた質問と、講師からの回答

迫田先生からの回答
古本先生からの回答
リード先生からの回答
迫田亜希子先生*からの回答
*迫田亜希子先生には、古本先生の発表のなかで授業例をご提示いただきました

迫田久美子 先生からの回答

Q:本日はありがとうございました。「ワーキングメモリが伸びた」ということについてもう少し詳しく教えていただけないでしょうか。
ご説明を聞き逃していたらすみません。質問意図ですが、ワーキングメモリは訓練しても変わらないと第二言語習得の話題などで聞いたことがあります。そのワーキングメモリとは別の次元の観点で伸びたと言われているのか、あるいはそうでないのかを知りたいです。またどのような評価?をされて伸びたことが見えたのか、今後の参考にさせていただければと思い、お尋ねさせてください。よろしくお願い致します。

A:拙著『日本語教師のためのシャドーイング指導』のpp.11-18に調査報告が詳しく紹介されています。音読や書写とシャドーイングの比較実験を行った際、調査の前と後でほぼ似たようなテストをし、前後の点数を比べました。その中にワーキングメモリー(WM)を測定するRST(Reading Span Test)やLST(Listening Span Test)があります。その数値の増加で、評定しました。シャドーイングをした時としなかった時では、RSTの値に違いが出ました。また、書写とシャドーイングでは、シャドーイングの方が実施前と後では、後の方がLSTの値が高くなっていました。確かに、WMはそれほど変化があるものではないのですが、訓練や活動などで多少の変化はあるのではないかと思います。私はWMの研究は専門ではありませんが、共同研究者の松見法男(広島大学)がその方面を研究しています。ご興味があれば、倉田久美子・松見法男(2010)「日本語シャドーイングの認知メカニズムに関する基礎研究-文の音韻・意味処理に及ぼす学習者の記憶容量、文の種類、文脈性の影響-」『日本語教育』 147号, pp. 37-51が参考になるかもしれません。

Q:アメリカの大学で日本語を教えております。レベルは主に初級です。

シャードイングは、会話の練習や読み物を読む際に、少し行う程度しか実戦したことがありません。発音の悪い学生、聴解能力が低い学生には、個人的にシャドーイングをすすめています。

時間制限のあるカリキュラムの中で、もう少し一貫したシャドーイングを使った指導ができればと感じています。以下のことについて、今回のワークショップで学べたら、またはアドバイスをいただけたらと思っております。よろしくお願いします。

(1)毎日のクラスで、シャドーイングを実践するいい方法(時間的には5分ぐらい)
(2)会話、読み物以外で、シャドーイング利用方法について
(3)クラス以外での、学生にシャドーイングの練習として与えるといいもの

A:事前に質問をくださったのですが、セミナー内で紹介できず、失礼いたしました。以下、回答いたします。
(1)私の経験の範囲ですが、日本語授業への頭の切り替え、ウォーミングアップになるように、最初の5分ぐらいをシャドーイング練習に使います。個々の学生がMP3や携帯を出して、ヘッドフォンやイヤホンをつけて一斉にシャドーイングします。そして、時には2~3分後に、個別練習を止めさせて、私が声を出して音読するのを全体でシャドーイングさせたり、1人の学生がイヤホンでシャドーイングするのを残りの学生がシャドーイングしたり、2人ペアになって1人はイヤホンでシャドーイングするのをもう1人の学生がシャドーイングしたり・・・などのバリエーションで練習します。
(2)会話・読み物以外のシャドーイングですが、使用している教材の「文型、例文」をシャドーイングさせています。同僚と二人で教材の文型・例文をslow speed版とnatural speed版を自主作成しました。Slow speedとnatural speedの違いを明確に測っているわけではありませんが、慣れてもらうために2種類用意しています。
(3) クラス以外の場合は、学生の興味に応じて用意します。シャドーイングをもっとやりたいとか、他の学生よりもすぐシャドーイングができてしまう学生には、その学生のレベルに応じて、a)好きな日本の歌 b)日本の小説(最近は聞かせる小説もあるので) c)各種のe-learningのコンテンツ(例えば、易しい日本語でニュースを聞く「NEWS WEB EASY」とか、国際交流基金の「ひろがる もっといろんな日本と日本語」等)を紹介してはいかがでしょうか。

Q:シャドーイング自体は非常にきれいにできるのに、実際に話すと単語単語の発音が違って意味が伝わらない学習者がいます(例:「旅行が趣味です」を「りょうこうがしゅうみです」のように言ってしまう)。シャドーイングの練習を続けていけば、このようなことも減っていきますでしょうか。
A:はい、減ってくると思います。では、どれぐらいシャドーイングをすれば、そのような誤用が減るのか・・・という効果の客観的な数値は示すことができません。それは、学生のモチベーション、練習時間、学生のレベルなど様々な要因が関わってくるので、一般化できないからです。しかし、私からのコメントとして以下の3点を挙げたいと思います。
(1)教師は学生ができるようになることを信じて、気長に待つこと
(2)少しでも学生の発話や発音に改善できたところがあれば、すぐそれを評価して、シャドーイングの継続の大切さを意識させること
(3)日本語では発音を間違えると別の意味になり、それで大きな誤解が生まれること、学生の日本語能力レベルが低く見られることを教え(例 両親は情事(?)で留守⇒両親は用事(!)で留守)、学生自身に長音かどうか濁音かどうか、また、自分の普段の発話とシャドーイングの発話が違うことを意識させてみてはいかがでしょうか。まずは、本人が気づくことが大事です。

Q:個人レッスンの場合、会話スタイルの教材は一人二役で練習するのでしょうか?
A:会話の場合のシャドーイングですが、はい、学生には一人二役で練習させます。教室で全体練習する場合は、二人でパートを分けてする場合もありますが、基本的には、一人二役で練習しています。個人レッスンであれば、本人の練習時には、一人二役で練習してもらい、レッスン時、先生にご披露する際には、先生と二人で役割分担して実施するのもバリエーションの一つになると思います。

Q:内容と関係ない質問で恐縮です。とても聞きやすくて素敵な話し方だと思うのですが、話し方講座やアナウンサースクールなどに通われたのでしょうか?
A:そう言っていただき、恐縮いたします。何の訓練も受けておりませんが、声が大きいのは、小学校の時に国語の教員が教科書の音読5回という宿題を子供心に「なぜ、5回も?」と疑問に思いながら、忠実に守ったからでしょうか・・・(微笑)。

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古本裕美 先生からの回答

Q:シャドーイング練習の記録は、成績に含まれるとなるとなおさら虚偽の申告をする学生が出てくると思うのですが、その対策のようなことはされているのでしょうか?
A:例えば、練習時間を「5分, 5分, 5分, 5分, 5分…」と殴り書きしたうえで、自由記述も「難しい」や「上手になっている」というようなシンプルなものを見つけた時には、それへの教師のコメント欄に「いつもどこで練習していますか」とか「だんだん上手になっていますか」とか「難しいと感じている点は何ですか」のような具体的なことを尋ねるコメントをしたりしています。1対1になった時に口頭で事情を聞いたりもします。

これらが効果的かどうかは分かりませんが、授業中の練習時や、テストのときに、「練習時間・内容→パフォーマンス」が釣り合っていない場合に虚偽が明らかになりますので、そんなときは学生もバツが悪いだろうと信じて、私は「練習の記録」の提出を求め続けています。

Q:聞かせていただいた学生同士のシャドーイングチェックでは、真剣に取り組んでいる様子が伺えましたが、そうでない学生や、能力的な問題でチェックができないような学生はいるのでしょうか?その場合、どのように対応されていますか?
A:私は「もう少したくさん指摘してほしいな」と思う学生に出会うことがあります。この、「あまりたくさん指摘できない」原因は、その学生自身の能力的なものよりも、ペアになった学生同士の関係性によるところが大きいかもしれないと感じています。具体的には、指摘し合えるような関係性にない2人をペアにした場合です。

それを防ぐために、ペアを組む相手を自分たちで決めさせるのはいかがでしょうか。そうすると、たいてい仲が良い相手とチェックし合うので、お互い指摘しやすいと思います。

そのほかに、「よくできました」「OK」「問題なし!」というような総合的、抽象的、単純なフィードバックを避けるために、事前にフィードバックし合う箇所やフィードバックする方法を教師から学生に具体的に示しておくことも有効です。

Q:オンラインの授業例、非常におもしろいです。ありがとうございます。ブレークアウトセッションのペアワークは、1回のクラスでどのくらいの時間とっていらっしゃいますか?
A:私がご紹介したビデオの授業は1回が90分×2コマ連続という長さがあります。その中で、Zoomの操作、LMSやファイル共有システムの操作、2人分のシャドーイング+フィードバックの時間を考え、15分~20分かけていたと思います。もし授業時間が短ければ、そのように長くは時間をかけませんし、授業内でしないかもしれません。

Q:ブレイクアウトセッションで学生にシャドウイングをさせる際に、音声はどのように共有するのでしょうか。事前に音声ファイルを送っておくのでしょうか。ご教示いただければ幸いです。
A:事前にLMSやファイル共有システムに音声ファイルを置いています。もしオンライン上に音声・動画があるものなら(たとえばyoutube)そのURLをLMS内でシェアしています。

Q:さいごの段階で、スクリプトにプロソディーグラフがのっているものをみせないほうがいいのでしょうか。みせたほうがいいでしょうか。
A:シャドーイング練習をとおしてプロソディの習得を目指されるのならば、お見せになると学生は意識しやすいだろうと思いますし、効果的に働くと思います。私は自分でプロソディグラフを書く(作る?)ことはできないんですが、学生には必ず「OJADの韻律読み上げチュータ スズキクン」(拙著, pp.70-71)の使い方を紹介しています。

Q:音声の質について質問です。オンラインで発音の確認をする時に音声が途切れたり、聞き取りにくい時がありますがどのように解決されていますでしょうか。
A:幸運なことに、先学期、私はシャドーイングをしていて音声が途切れて聞き取りにくいという場面がありませんでした。でも、もしそれが多発したら、まずは、学習者の学習環境を確認し、後ろで立ち上げている他のソフト、アプリを閉じてもらったり、Zoomのカメラをオフにしてもらったりするかなと思います。それでも途切れてどうしようもなかったら、同期での発音チェックはあきらめ、非同期でシャドーイングの音声ファイルを提出してもらってチェックすると思います。

Q:オンライン授業で会話形式のシャドーイング(「Shadowing 日本語を話そう」を使う予定です)の実施を考えていますが、学生のほとんどが携帯の参加で、難しいのではと考えているのですが、実施するにあたってアドバイス等あれば伺えたらと思います。よろしくお願いいたします。
A:「オンライン授業×携帯のみ」で難しいことは、先生方がお使いになるシステムや、そこで学生にどんな練習をさせたいかによるかなと思います。

【大変そうなこと】
①学生自身がZoom、LMS、ファイル共有システム等、いろいろなサイトやアプリを行ったり来たりしながらシャドーイングするのは、携帯では難しそうです。 ●解決案●同期でも非同期でも、シンプルにシャドーイング練習するのはいかがでしょうか。例えば、Zoomを使う場合、メインセッションで教師がモデル音声を流し、学生はミュートにしたままでサイレントシャドーイング、マンブリング、コンテンツ・シャドーイングなどをするといった練習はできると思います。

②携帯で音声を聞きながらシャドーイングし、それと同時にシャドーイング音声を録音すること。 ●解決案●『Shadowing 日本語を話そう』ではないのですが、「がんばってシャドーイング」というアプリでは、そこにある会話形式の教材を聞きながらシャドーイング音声が録音できます(拙著, pp.94-97)。そして、いくつもその録音データを保存しておくことができます。ただその録音データを外部に送信することはできません。 ●解決案●「FeedBackRec」というアプリを使えば「録音されたシャドーイング音声のデータを外部送信すること」が解決できます。しかし、そのアプリの無償版では保存できる録音データ数は1つだけです。

Q:スマホしか持っていない学習者が、シャドーイングの音声を聞くことと自分のシャドーイングを録音することは1台で同時にできるのでしょうか。私のスマホではできないため、もし古本先生の学習者さんでそういった状況の方がいらっしゃれば、どう対処しているのか知りたいです。
A:スマホ1台で一度に「シャドーイングのモデル音声を聞く+自分のシャドーイングを録音する」ことは、私もできません。その解決案を1つだけ見つけましたので、上のQ&Aの「●解決案●」をご覧ください。他に良い方法があったら、私にも教えていただきたいです。私のクラスの学習者は全員がPCとスマホの両方を持っていましたので、PC上で「モデル音声を聞く」、スマホで「自分のシャドーイングを録音する」、またはその逆(スマホ→モデル音声再生/PC→シャドーイング音声録音)ができました。

Q:リモートでシャドーイング、具体的な実践例、ありがとうございました。3者間でZoomでおこなうシャドーイングですが、シャドーイングしていた学生さんは、イヤホンで聞きながらシャドーイングをしていたのでしょうか? お手本音声が聞こえなかったので。
A:はい、学生は全員イヤホンをしていました。あの場面は、学習者C(男性)がPCかスマホにイヤホンをつないでシャドーイングし、学習者Cが発する声のみをZoomに接続している学習者CのPCが拾っていました。そのため、学習者D(女性)と私は、学習者Cの声だけが聞こえていました。

Q:シャドーイングは方法や効果などあいまいなまま取り入れている部分があったので、大変勉強になりました。本当にありがとうございました。
【質問①】初級レベルでアニメに興味を持っている学生に合う教材はありますでしょうか。Youtubeなどを使うのもよいかと思ったのですが、アニメの台詞なので日初級の学生には難しく感じるのではと思います。
【質問②】興味、関心とレベル差のマッチングが難しいと思うのですが、その点、いかがでしょうか。何か解決するコツはあるのでしょうか。

A:あたたかいお言葉、ありがとうございます。
「授業で使っている教科書は〇〇で、今は第△課だから、アニメだと語彙や文法が難しいかな…普通体とか縮約とか多いし…」と思うと、流行りのアニメからシャドーイングできる部分を見つけ出すのはなかなか難しそうですね。でも、そう考えず、「好きこそものの上手なれ」で、好きなアニメなら未習の語彙・文法が多少含まれていても学生はチャレンジし続けるような気がします。

たとえば、アニメ「僕のヒーローアカデミア」は、可能表現や授受表現が第1シリーズから出てきます。また、重要な台詞は繰り返し使われます。そのような部分で、このアニメが好きならば、初級レベルの学生もシャドーイング練習してくれるような気がします。
 デク:個性がなくても、ヒーローはできますか。個性がない人間でも、あなたみたいになれますか。
 オールマイト:君はヒーローになれる。
 デク:言ってもらったんだ。君はヒーローになれるって。
「鬼滅の刃」でも「トトロ」でも「タッチ」でも、探してみたら初級レベルの学生もできる部分がありそうです。

Q:具体的な方法を拝見できて大変有意義なワークショップに感謝申し上げます。Wi-Fi環境が今一つで聞き逃してしまったかもしれないのですが、質問させてください。
①1つの教材でテストは1回なさっていますか。それとも時期をずらすなどして段階的に複数回なさっていますか。
②ブレークアウトルームでペア練習の場合について。Aさんのシャドーイングに対するBさんのコメントに教師が疑問を感じた(同意できない)場合、どのように対応されますか。
どうぞよろしくお願いいたします。

★思うように発話ができなくてフラストレーションんを感じている韓国の女子高生を教えているのですが、シャドーイングを勧めてみることにします。しっかりとフィードバックしようと思います。
先生方、皆様、ありがとうございました。

A:こちらこそご参加いただき、ありがとうございました。

①私の場合、基本的に、1つの教材でテストは1回しか行っていません。でも、もしシャドーイング練習に時間・日にちをかけられる場合や、同時間にテストすべき学生が少ない場合は、もう少し細かいステップでテストが行われると、学生は複数回のテストを通して自分の伸びを知ることができますし、一発勝負のテストというプレッシャーがなくなるので学生は嬉しいかもしれません。

②私の今までの経験を振り返ってみると、ペア練習中に多く聞かれるコメントは「この部分が言えなかった」や「●●と言わないといけないのに、××と言った」というものです。このような場合には、教師が疑問を感じるコメントはそれほど多く出てこないかもしれません。でも、同意できないコメントも時々あります。もし間違っていることをBさんがAさんに伝えていたら、私は自分の気持ちや考えをBさんに伝えたり、Bさんに少し詳しく尋ねたりしていると思います。また、Bさんに指摘してほしかったのに指摘しなかった際には、私が補足してコメントしています。逆に「私はそんなに気にならないんだけどな」と思うようなコメントならば、そのままにしています。たとえば、私の耳ではわからないイントネーションの上下や、子音の発声方法などです。

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リード真澄 先生からの回答

Q:授業の始めのシャドーイングはペアでさせたりするとおっしゃっていましたが、ペアでする際の指示はどういったものなのでしょうか?学生が会話しているようにシャドーイングするとおっしゃっていたので、学生はイヤホンを使ってシャドーイングする、その際向かい合ってするということでしょうか?
A:毎回ペアにはせず、練習をして、ある程度できる様になった段階でペアワークにしていました。教材として使いたい会話の一方だけ練習するのでは、もう一方の練習ができませんので、最初からペアではさせませんでした。ペアで練習する場合も、必ず交代してもらいました。練習は全体で何度か行ってから、ペアごとに一つの音声をイヤフォンで聞いてもらい、練習、というパターンです。おっしゃる通り、ペア練習の際は向き合って顔を見ながらしてもらいました。テキストは見ませんから、顔を見てすることができます。オンラインの授業ではブレークアウトルームでペア練習をしてもらうことができると思います。

Q:シャドーイングの教材に舌切り雀などをお使いになっているとのことですが、物語自体は一分以上あると思います。シャドーイングに使う部分はどのようにして選んでいるのでしょうか?
A:「舌切り雀」は人形劇にしてしまいましたので、学生が各自の役割の部分をシャドーイングする形で、物語を全て使いました。また、3年目のクラスでは、1分ほどのセクションを数日練習し、できる様になった時点で、次のセクションに移行、ストーリーのほとんどをシャドーイングに使ったこともありました。「蜘蛛の糸」は物語のクライマックスをシャドーイングする部分として選びました。臨機応変に選んで構わないと思いますが、シャドーイングの部分は全体のストーリーを思い起こせる様な、全体の中でも重要な内容の部分が良いと思います。ただ、語彙や表現、文法などで是非覚えて欲しいと思われるものがあれば、そういった部分を使用することも出来ますし、教師側の工夫でどのように使ってもいいのではないかと思います。

Q:楽しくさせるための工夫で、教材選びの他になさっていることをいくつか教えていただけないでしょうか?
A:学生が楽しんでいるかどうかは、見ていればすぐ分かりますよね。会話形式にすると、たとえシャドーイングであっても、それがある程度のインターアクションになりますので、一人一人させるより楽しめるのではないかと思います。また、ニュースやインタビューなどを教材にする場合、パワーポイントや動画を使って、本人がニュースキャスターになっているような雰囲気でシャドーイングをしてもらっても面白いと思います。選んだ教材を単なる教材として使わず、どんな形でシャドーイングをするかという工夫がある程度必要かと思います。毎回このような工夫をする時間は取れないと思いますが、1学期に一度でも、単に練習するという方法から脱出してみることがお勧めです。

Q:シャドーイングを録音したものを提出してもらっているのですが、「自分の録音を聞くのが恥ずかしい(上手にできていないのを実感してしまうから)」という理由で提出しない学習者がいます。こういった場合は無理に提出してもらわないほうがいいのでしょうか。
A:教師にとって学生に個人的に対応するのは難しいこともあると思いますが、非常にシャイで自信のない学生への対応には、やはり個人的にするのがいいと感じます。これも先生によって考え方が違うと思いますが。録音がどうしても嫌なら、先生が直接聞いて評価することになります。教師の前でシャドーイングをして評価されるより、一人で録音する方がやりやすいのではないかというのが私の認識でしたが、もしその学生さんが先生の前でシャドーイングをすることに同意するなら、そうしてもらえば良いですし、録音も対面でもできないと言うなら、本人にも代替案を考えてもらうのも一案かも知れませんね。評価用の音声を提出しない代わりに二倍の教材を使って練習してもらう、シャドーイング以外の練習をさせるなど。(生)教材の書き起こしなども勉強になるように思います。自分の声は、話している時と録音したものがかなり違って聞こえますから、「自分の声が嫌いだ」という人は確かにいますよね。でも、教師が学生の音声を聞かずに評価・FBすることは非常に難しい、ということを理解してもらうのも大切ではないかと考えます。

Q:教材選択、負荷の小さいもの大きいものについて もう少し詳しく教えてくださいませんか?
A:教科書のCDなどをお使いになる場合は、進行中のユニットの音声をそのまま、または速度を落として使うことで、学習者のレベルに合わせられると思います。アプリとして使用できる「Ganbatte Shadowing」もゼロ初級から中級の学習者に使える教材です。くろしお出版の『Shadowing 日本語を話そう!』も幅広いレベルの学習者に対応しています。数回の練習を経て、学習者がなかなかコンテンツシャドーイングまでたどり着けない場合は、負荷が重過ぎるのではないかと思いますし、すぐにシャドーイングができるものは軽過ぎます。先生がご判断なさるのも一つの手段ですが、可能であれば、学習者本人に「これならついて行ける」と思えるレベルの教材を選択してもらうのも宜しいかと思います。

Q:今日は本当にありがとうございました。以前シャドーイングをクラスで取り入れてみたのですが、3回目ほどで飽きているように感じました。でも正確に聞き取れていないのでもっと練習したかったのですが、シャドーイングが飽きられてしまうと困ると思い、中途半端で終わってしまいました。そこで、どのようにモチベーションを維持させるか、どんな工夫があるか(人形劇!CM!素晴らしいと思いました)、紹介していただけると助かります。もしくはそのような論文があればご紹介いただけると大変うれしいです。
A:くろしお出版の『Shadowing 日本語を話そう!』には、母語話者が頻繁に使用する会話表現が豊富に含まれています。母語話者の日本語を直接聞く機会が少ないJFL学習者を教えておりましたので、学習者にとって、シャドーイングにより会話表現に触れられたことが一つの楽しさになっていたように感じました。学習者が退屈しないよう、彼らの興味があるアニメなどの生教材を使えればいいのですが、速度も早く、表現も複雑で、初級レベルの学習者に使うのは難しいと思います。学習者の興味がある生教材の中から表現をいくつか選んで、先生が録音なさったものをシャドーイングで使い(画面などを見せながら)、できるようになった段階で、元の生教材でシャドーイングをしてもらうなど、学習者が飽きない工夫は可能かと考えます。可能であれば、いくつか異なる教材を提示して、学習者に選んで練習してもらうと、やりたくないものを押しつけられた、という感じがなくなるかと思います。また、何回かシャドーイングをして、飽きてしまったように見えた段階でやめてしまうか、教材を変えて継続するかは先生のご判断ですが、習慣化することで何か得られたと学習者が感じることがあるのではないかと思っています。授業中にお時間を取れるのであれば、今使用している教材には飽きたように見えても、別の教材を使えば飽きないで楽しめる可能性もあると思いますので、1学期間継続してみて学習者からFBをもらってみてはどうかと考えます。論文については後ほどお調べしてご連絡させて頂きたいと思います。

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迫田亜希子 先生からの回答

Q:すぐに授業に応用できそうなとても有意義なご発表、ありがとうございます。
一つご質問なのですが、ご発表に出てきた迫田亜希子先生の授業で、学生が自分の音声を録音したものをLMSにアップするということでしたが、その録音は何のアプリを使ったか、またはおススメのアプリなどあれば教えていただきたいです。よろしくお願いします。

A:ご質問ありがとうございます。学生さんにお送りいただくときのファイルは、特にアプリを使用しているわけではなく、パソコンのスピーカーで録音授業で流した音声を再生してシャドーイングし、それを携帯電話の録音機能で録音してもらい、そのファイルを提出してもらっていました。アプリについては知識不足で、お力になれず申し訳ありません!!

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●開催情報

日本語教師のためのシャドーイング指導
―「わかる」を「できる」に繋ぐために―

■会場 オンライン上Zoom会議室
抽選の結果、参加枠をご用意できた方にURLをお知らせします。

■日時 2020年10月17日(土)10:00 – 12:00(日本時間・Zoom会議室は9:30入室開始予定)

■講師
迫田久美子 先生(広島大学 特任教授、国立国語研究所 客員教授)
広島大学大学院教育学研究科教授、国立国語研究所教授を経て、2017年より現職。
著書に『改訂版 日本語教育に生かす 第二言語習得研究』(2020、アルク)、『日本語学習者コーパスI-JAS入門』(2020、編著、くろしお出版)など。

古本裕美 先生(長崎大学 留学生教育・支援センター 准教授)
広島大学大学院教育学研究科助教、国際交流基金米国若手日本語教員(J-LEAP)を経て、2014年より現職。
論文に「読解前の質問と読解時間が説明文の理解・記憶に及ぼす影響 ―中学生と大学生の比較―」(『読書科学』52巻、2009、共著)など。

リード真澄 先生(上智大学 言語教育研究センター 非常勤講師)
米国テキサス州ウッドランズ高校、日本語教師を経て、2020年より現職。
論文に「米国の大学生JFL学習者による日本語の会話の含意(conversational implicature: CI)理解について」(上智大学大学院言語科学研究科)。

◎講師から
外国語を「理解すること」と「話せること」は別々の作業です。前者は頭で「わかる」作業、後者は実際に口に出して使える、「できる」作業です。ワークショップの前半では、「わかる」を「できる」に繋ぐ具体的な手段としてシャドーイングを紹介し、その効果と学習者への対応、授業での取り入れ方、またオンライン授業での活用の仕方などを紹介します。後半では、参加者の皆様に英語でのシャドーイングを体験して頂く予定です。さらに、双方向型の分科会で、講師と参加者が学生対応や教材選択、評価方法などについて互いに話し合います。このワークショップをとおして、ぜひ一緒にシャドーイングの効果的、継続的利用法について考えてみましょう。

■参加費 無料

■定員 80名(抽選申込)

■予定内容
第一部 「シャドーイングを理解しよう!」 
(1)なぜシャドーイングがいいのか?
(2)対面授業ではどう活用するのか?
(3)オンライン授業ではどう活用するのか?

第二部 「シャドーイングをやってみよう!」
(1)体験コーナー シャドーイングの実践
(2)分科会コーナー 講師と参加者の双方向型トーク
 a)効果と学生対応 
 b)教材と評価

参考書:『日本語教師のための シャドーイング指導』 >

関連教材:『シャドーイング 日本語を話そう』シリーズ >
・初中級編
・中上級編
・就職・アルバイト・進学面接編
 ※いずれも[英語・中国語・韓国語訳版][インドネシア語・タイ語・ベトナム語訳版]の2種類があります

■お申し込み
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