イベント(国語)

オンラインセミナー:国語力をアップデートする ―基礎知識から、主体的な学びへつなげるために

講師: 山田敏弘 先生(岐阜大学教育学部国語教育講座教授)
日時: 2021年5月29日(土) 14:00 - 15:30
場所: オンライン

イベント一覧 >

国語力をアップデートする ―基礎知識から、主体的な学びへつなげるために

【2021/06/09 開催レポート掲載】

こちらのセミナーは終了しました。
お申し込み・ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

●講師からのコメント

「対面ではなく多くの方のお顔も見えないままのセミナーで、こちらも緊張していましたが、温かい雰囲気でさせていただくことができました。一方的に話す形式になってしまいましたが、受講者のみなさんからの疑問・質問を拝見し、もっと議論できればよかったと思いました。またの機会があることを楽しみにしています」

●発表資料

PDF形式で公開します。下記リンクからご覧ください。
発表資料 >

※無断での転載や頒布(アップロード含む)はしないでください。

●お寄せいただいた質問と、講師からの回答

Q:現在単位制の公立高校で「日本語」(外国籍生徒)と「国語」(日本人と外国籍混合)を教えています。日本人生徒も「国語」を難しく感じる中、「国語」の授業でいよいよ現代文の「山月記」を扱う段階になりました。ちょっと考えていたのは「山月記」の一段落を「やさしい日本語」で生徒たちに書かせてみてはどうだろうかということです。こういう活動は先生のお考えの、日本語教育と国語教育を近づけるというコンセプトに合っていると思われますか?(ある程度授業のやり方が任されているので、私はこのようなアクティビティを現代文で行ってみようかと思っています)
A:日本語を母語とする生徒としない生徒がWin-winとなれるような取り組みでよいと思います。リライト教材に関する書籍もありますので、ぜひご参照ください。

Q:国語文法と日本語文法の高次な統合は可能でしょうか。
A:国語には古典文法を読み解くという使命がありますので、この部分があるかぎり「統合」は無理ですが、相互に歩み寄ることはできると考えています。

Q:漢字の勉強について質問があります。昨今やさしい日本語という言葉がよく聞かれますが、私はこの取り組みは素晴らしいなと思っています。日本語には漢字で書かないと区別できない言葉が多く、漢字使用は大切だと思うのですが、部首を覚えたり書き順まで勉強する必要があるのかと疑問に思っています。日本語学習者で漢字圏出身でない生徒には負担が大きいです。先生はその点どうお考えでしょうか。日本語教育において漢字学習をどのように進めることが良いかお聞きしたいです。また、縦書き、横書きの件もお聞きしたいです。宜しくお願い致します。
A:部首は、意味や音を知るための手掛かりになるものを優先すればよいかと思います。書き順は、「口(くち)」と「□(四角形)」のように、ほかの漢字(記号)と間違えなければよいのではないでしょうか。縦書きと横書きは、まず横書きで始めて、無理のない範囲で縦書きを導入するだけでよいと思います。公文書もどんどん横書きになっています。

Q:小中学校での文法教育が古典教育への架け橋になっていて現代語文法教育のためになっていないという点、興味深く聞かせていただきました。この点で疑問に思ったこととして、英語教育も同時に中学校では行われていますが、英語教育での文法用語と、小中学校での文法指導上の用語の整合性、また、英語教育での文法教育が現代語文法教育のためになっているのかどうか、という点、気になりました。小中学校までの文法教育がどれだけ現代語文法教育に役立っているのか、その現状について知りたいです。
A:「速く」を英語で考えて副詞とするなど、英語だけではやはり日本語文法を正しく理解できません。「主語」の機能も異なっているのに、同じ用語で読んでいます。小中学校の口語文法教育が、書けるようにするため、話せるようにするためを目指すのであれば、それは日本語教育の文法に近くなると考えています。接点はありますので、生徒が混乱しないように整理して提示することが大切と考えます。

Q:山田先生以外に、先生のように日本語教育と国語教育を近づけようと研究されている方はいらっしゃるのでしょうか?
A:これから、早稲田大の森山卓郎さんや筑波大の矢澤真人さんを中心として、このようなハイブリッドな学会を立ち上げようと目論んでいます。これからにご注目ください。

Q:(セミナーの最後に出た質問にかんして)「日本語教育と国語教育とは違うものだ」という言説、そして、「日本語教育と国語教育のつながりを目指していきたい」という言説は、決して矛盾するものではなく、場面や対象に応じて、使い分ける必要があるという理解でよろしいでしょうか?
例えば、来日直後の外国人の児童・生徒に日本語教育の体系的な指導を実施せずに、国語教育の手法を疑いなく導入してしまうようなケースであれば、前者の言説を強調しなければいけませんし、一方、国語教育に固定的な印象を持ちやすい日本語母語話者(教師も含めて)に対しては、日本語教育をはじめとする外国語教育の知見が指導を更に活性化させるうえで有益であるという観点から、後者の言説が有効であるのではないかと私自身は受け取りました。

A:はい、現在の国語教育の文法は、日本語教育とは異なり、語源主義で形式重視です。日常生活で活かせるような文法にするには、より機能面を重視していく必要があると考えています。とはいっても、多くの日本国民に共有されている国語文法がまったく不要なものというわけでもありません。使えるところは使えばよいですし、固執しないで外国籍児童生徒教育に資する考えを入れていけばよいと思います。私は、国語文法のリフォームを提案しています。

Q:セミナーでご提示くださった教師の様々な「誤解」は、行き着くところ、国語教師、そして日本語教師のメディアリテラシー、情報リテラシーを問い直すことになるのではと感じました。ネットで検索することから一歩踏み込むことの大切さを地道に訴えるしかないのでしょうか。教師としては学生に、ネット情報の限界を気づかせるようなきっかけを時々与えられればと思っていますが、これらに関しても機会があれば、先生のご意見もお伺いしてみたいと思っています。
A:学生を見ているとネットだけで済ませようとする態度がよく見えます。とにかくつなげていくこと。今回はそれを強調しました。

Q:学校の先生方と日本語の先生とで授業を作ろうとしているときに、縦書きにするか横書きにするかでかなり長時間話し合いました。
結局、日本語の文字の指導をするときには縦書きにして、今後の国語の授業のときにこどもが戸惑わないようにしようという結論に達しましたが、日本語初期指導教室なので文字指導とはいってもひらがなの単文字・2文字程度を組み合わせた名詞程度の板書です。
小学生や中学生、学校の中で「日本語指導」(国語の授業ではなくて)をする場合、入門期から縦書きにしたほうがいいのでしょうか。先生のご意見をうかがいたいと思います。よろしくお願いいたします。

A:いえいえ、日本語指導は横書きで良いと思います。学校からのお便りも、ほとんど横書きです。国語のときに、どれだけ混乱が生じているかわかりませんが、両方はやはり難しいのでしょうか。私も調べてみたいと思います。

Q:国語の授業の中で、文法教育は小・中・高の各段階においてどれくらい必要か、先生のお考えをもっと聞きたかったと思いました。また、これは私自身が勉強すべきところでもありますが、現行学校文法の使いどころや、逆にそれに縛られなくて良いところ(もっと自由に考えて良いところ)、読解や作文への応用の仕方や、それに関わる考え方などについても先生のお考えを知りたかったと思います。
A:これからは、教えるのではなく考えるために文法を役立てればよいと思います。セミナーでお話ししたさまざまな矛盾点を、じゃあ、どうしたらよいのか、生徒といっしょに考えていく、その素材とすることがよいのではないでしょうか。

開催情報

■会場 オンライン(Zoom)
■日時 2021年5月29日(土)14:00 – 15:30
■参加費 無料
■定員 80名(先着申込)

■講師
山田敏弘 先生(岐阜大学教育学部国語教育講座教授)
博士(文学・大阪大学)。国際交流基金派遣日本語教育専門家、富山国際大学講師、岐阜大学助教授を経て、2013年より現職。専門は、日本語学、岐阜方言研究。主著に、『日本語のベネファクティブ―「てやる」「てくれる」「てもらう」の文法―』(2004、明治書院)、『国語教師が知っておきたい日本語文法』(2004、くろしお出版)、『国語教師が知っておきたい日本語音声・音声言語』(2007、くろしお出版)、『国語を教える文法の底力』(2009、くろしお出版)、『日本語のしくみ』(2009、白水社)、『その一言が余計です。―日本語の「正しさ」を問う―』(2013、筑摩書房)、『あの歌詞は、なぜ心に残るのか―Jポップの日本語力―』(2014、祥伝社)、『日本語文法練習帳』(2015、くろしお出版)、『国語を教えるときに役立つ基礎知識88』(2020、くろしお出版)など多数。

講師から
 日本語を教えることと国語を教えること。両者は、同じ日本語の学習を支援することですが、方法がまるで違います。日本語教育では「マス形」という形も、国語教育では相変わらず連用形に丁寧の助動詞を付加したものと教えられますし、そもそも国語教育では実際の言語生活に応用できない文法知識が多すぎます。
 しかし、国際化が進み日本語を母語としない人々が多く住む日本では、両者のボーダレス化が進むでしょう。外国語で通じ合うことも一手ですが、日本語を母語話者自らよりよく知り教えるときにも役立てること。それは日本語教育のみならず、国語教育でも取らざるを得ない方向性です。
 一方で、国語教育では、「木」の2画目をはねてよいかなど、明確なルールが示されているにもかかわらず経験則で教えている場面にも出くわします。一度受けた注文を確認するときの「ご注文の品はこちらでよろしかったでしょうか」なども、巷間跋扈する俗説に惑わされて、教科書にある記述を無視する教員もいるようです。知識のアップデートが必要です。
 ただ、世の中では、知識・技能を主体とした、思考力・判断力・表現力が問われる時代。国語教師は、国語の知識を教材分析に活かしたりそれ自体を考えるための素材にしたりすることが求められています。学校に増え続ける日本語を母語としない子どもたちへの日本語学習支援にも、主体的に学ぶ国語の、特に文法力をアップデートすることも必要なのです。
 本講座では、Society 5.0の時代に求められる国語力を考えていきます。国語を教える教員のみなさんにも、また、学校で日本語を母語としない子どもたちの支援をすることに関心のある日本語教師のみなさんにも、お勧めの講座です。

■定員 80名(先着申込)

■予定内容
1.基礎知識の確認
 ・楷書のバリエーションと、その根拠にたどり着く方法
 ・形容詞と形容動詞の比較と、変化の根拠を与える理論
 ・ 確認の「た」と、「国語教師の日本語知らず」の克服法、など

2.国語教材の分析
 ・文法を用いた説明文の構造化
 ・文法と語彙から見抜く物語文の構造
 ・未来志向の学校文法の提唱

■本セミナー参考書
国語を教えるときに役立つ基礎知識88
『国語を教えるときに役立つ基礎知識88』

その他、山田敏弘先生著書・執筆書 >