イベント(日本語教材)

オンライン 教材セミナー:『シャドーイング もっと話せる日本語』―ワンランク上の会話力を身につけよう―

講師: 迫田久美子 先生(広島大学 森戸国際高等教育学院 特任教授、国立国語研究所 名誉教授)、古本裕美 先生(長崎大学 留学生教育・支援センター 准教授)
日時: 2024年2月17日(土) 14:00 - 16:00
場所: オンライン

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こちらのセミナーは終了しました。ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。
当日は、迫田久美子先生、古本裕美先生のほか、事例報告として、リャウ ユンチン先生(HLA日本語学校)、倉品さやか先生(国際大学)にもご発表いただきました。

●開催レポート

開催レポートとして、「当日の発表スライドの一部」「ご参加者の感想の一部」「お寄せいただいた質問と、講師からの回答」を公開します。ご参考にしてください。

当日の発表スライドの一部

下記リンク先からPDFで閲覧いただけます。

発表スライドの一部(.pdf: 1.2MB) >
※無断での複製や転載はしないでください。

ご参加者の感想の一部

お寄せいただいたご感想のうち、掲載許諾をいただいたものの一部を抜粋して掲載いたします。

シャドーイングの難しさを感じていたのですが、今回の先生方のお話が聞けて安心しました。今の現場で、できることをやろうと前向きに考えられるようになりました。

評価シートをダウンロードできる点はとても助かります。職場での接客用語や待遇表現のシャドーイング教材もあるといいなと思いました。

シャドーイングとは何か、何のためにするものなのかという基本的なことを本とこのセミナーで確かなものにできました。「わかる」と「できる」をつなぐという言葉に腹落ちしました。

一般的に言われている「シャドーイング」とは最終段階の「コンテンツ・シャドーイング」「プロソディ・シャドーイング」のことで、そこにいくまでには準備運動が必要だということを理解しました。学習者を動機づけるには、自分が体験することも必要かもしれないとも思いました。今回参加して、シャドーイングに対する誤解が解けた気がします。

そもそもシャドーイングと一括りにすると大変なイメージがあったのですが、どうやって導入するか、どのようなステップで進めていくかなど段階的な進め方が理解でき、先入観を取り払うことができました。また、先生方のご苦労と思いやり(生徒のモチベーションを下げないようにフォローする、褒めるというサポート部分)も大切な指導の一環なのだと再認識しました。

シャドーイングの基本的な考え方をはじめに説明いただき、大学や日本語学校での具体的な実践例や評価方法を、学生の声も含めて紹介くださり、大変勉強になりました。シャドーイングを敬遠してしまっていたところがありますが、ぜひ、新年度のクラスで取り入れていきたいと思っています。

学習者が興味を持ち、達成感を実感して自律的に続けられるような授業デザインをすることが大切だと感じました。また、メインのシャドーイングに行く前の準備段階を丁寧にすることが、シャドーイングの効果を高めるために重要だということにも気づきました。評価についても、学習者のモチベーションを高めるための評価だということを意識してできるようにしなければな、と痛感しました。

最初に学習者に目的とやり方を丁寧に説明すること、そして評価すること、学習者にとっても、教師にとっても負担になりすぎることは長続きしないということなど、多分そうだろうなと思っていたことがクリアになりました。改めて本を手に取って確認してみたいです。

教師も学習者も曖昧模糊としているシャドーイングを気持ち良いくらいきれいに整理し論理的にご説明いただき、いちいち納得でした。これからは、自信を持って授業にシャドーイングを取り入れていきたいと思います。ありがとうございました。

最も知りたかった評価について、実践と共に幾つかの方法を共有していただけたのがとても参考になりました。

テキストの使い方に近いようなセミナーかと思い、あまり期待はしていなかったのですが、先生方の体験談(40人越えのクラスでのフィードバックの難しさなど)や基本的なシャドーイング指導の考え方などを再確認できて、参加して本当に良かったと思っております。

学校の授業でのシャドーイングの実践例がとても参考になりました。評価方法も参考になりました。今後当校でも自立学習がテーマになってくると思いますが、書籍の中にもある自己評価表は非常に活用していけると思いました。

シャドーイングは効果があると自分が信じきれていなかったから、なかなか使えなかったのだと実感しました。限られた授業時間で無理に押し込むより、宿題やLMSを活用すれば、うまく取り入れられそうです。また、ほめるより間違いを山のように指摘していた自分に気がつきました。ありがとうございました!

シャドーイングをやり続けた結果、流暢さや聴解力アップを身につけた学生たちの実例が、とてもよい好例として印象に残った。

自分が思っていることを、日本語の自然なスピードや発音・イントネーションでアウトプットできるようになるには、やはりまずシャドーイングの練習を一定期間続けるという、たゆまぬ努力が必要なのだととても納得できた。

また、教師側からテキストやマテリアルを提示するだけでなく、学生たち自身が自らやりたい素材を探して、それをシャドーイングするという方法論も、参考になった。それにより、マテリアルのバリエーションが広がり、学生たちにとっては、自分のなりたいモデルを探して、それに近づくということが可能になり、モチベーション維持にも役立つように思う。

お寄せいただいた質問と、講師からの回答

Q: シャドーイングの導入に1コマ時間を割いているという話に関して、どのようなことをそのオリエンテーションの際にお伝えになっているのか伺いたかったです。シャドーイングとリピートの違いなどがうまく伝わっているのか正直分からないところがあったので。
(回答者:迫田先生)

■シャドーイングの導入とオリエンテーション

授業はシャドーイングだけを90分しているのではないので、オリエンテーションはその授業全体の目的や目標を示し、その一部にシャドーイングを利用することを伝えます。以下、シャドーイングだけのオリエンテーションの部分です。

【導入に時間をかける理由】
シャドーイングを導入する前に、学生たちには十分な理解が必要だと考えます。それは、シャドーイングを続けることはとても大変で困難を伴うため、それを克服するためには学生自身が納得して実施することが重要だと思うからです(教員自身もシャドーイングをしばらく実践してみるとその持続の大変さが実感できると思うので、お勧めです)。

【導入=オリエンテーション】

  1. シャドーイングの方法についての説明
    この方法は長い歴史があること、通訳訓練で現在でも用いられている効果が認められている練習方法であることを説明します。
  2. 効果について説明
    英語教育や日本語教育でも調査研究が行われていて、音読(自分で声を出して本を読む)や書写(書き写す)よりも効果が高いこと、効果が出るのは「発音・音声」や「リピート力」だけでなく、「聴解力」も高まることを説明します。
  3. 授業でシャドーイングを導入する目的を説明
    シャドーイングの効果の中でも授業によって、焦点をあてるところが異なります。私は、これまでは、その時の学生たちのニーズや科目に応じて、「単文から複文の習得を促進する」「聞き取りのチカラを伸ばして発話力を伸ばす」「会話の流暢性を高める」などの目的を示しました。目的は1つに設定するほうが分かり易く、説得力が感じられます。
  4. シャドーイングには段階があることを説明
    だれでも初めからシャドーイング(コンテンツシャドーイング)に挑戦させるのではなく、準備の段階があるので、それを学生たちのペースで進めることが大切で、決して焦らせないことの説明が必要です。
  5. シャドーイングの進度には個人差があることを説明
    教師も学生自身も上手にできない理由を適性や向き不向きだと決めてしまわないことが大事です。幼児が箸を使い始める際に練習が必要なのと同様、何回も練習すれば必ずできるようになると伝えます。その際に大事なことは、教師も学生も他の人と比べないこと。進度は人によって異なります。

    できれば、シャドーイングを実施する際に、「Slow」と「Natural」の速度を用意して、最初は全員Slowな(少しゆっくりめ)速度でスタートし、学生本人がNaturalにチャレンジしたければ、進めていくのもいい方法です。

    それでも、声が出ない、ついていけないと思う学生には、シャドーイングではなく、リスニング(聴解)練習を何度もやってみることを勧めます。声を出さなくてもいいのです。聞くだけでも十分な練習(速度と理解)になるためです。

  6. 一人一人の学生へのチェックとフィードバックを与える
    学生には、必ず教師が評価をすることを伝えます。評価方法は、教員によって自由に考え、その科目の中でのシャドーイングの位置づけによって変わります。成績の対象とするか、参加するだけの評価にするかは、教員が決めます。ただし、学生には評価することを伝えることが重要です。点数をつける、つけないにかかわらず、学生へのフィードバックを心がけ、学生の変化について声かけをします。そうすることによって、学生の動機づけが高まったり、練習の継続に繋がります。

■シャドーイングとリピーティングの違い

シャドーイングとリピーティングの違いは、耳から入ったインプットを即座にアウトプットするのがシャドーイングで、一度ある程度のまとまりのあるフレーズや文を聞いた後で繰り返させるのがリピーティングです。

シャドーイングが伸ばすのは、即時処理です。つまり、聞いてすぐ理解し、反応するチカラです。一方、リピーティングはインプットの再構成能力だと思います。つまり、一度、聞いたフレーズや文を理解し、自分の文法力や語彙で再構成(組み立てる)作業なので、語彙や文法力も関わります。その際は、自分のペースで再構成するため、モデル音声の速度や発音とはかなり異なることが推測され、さらに学生自身の誤用も産出される可能性もあります。

シャドーイングでも慣れて上達すると、意図的に遅くスタートしてシャドーイングさせるDelayed Shadowingという練習方法があり、これだと時間が経過するので負荷がかかり、リピーティングに近くなります。

Q: シャドーイングは毎日15分など、決まった時間することが大切でしょうか。また、暗唱ではだめな理由もお伺いしたいです。
(回答者:迫田先生)

■シャドーイングの時間

授業の中でシャドーイングをどの程度取り入れるのか、教員のシャドーイングに対する扱い方は教員の裁量です。日本語能力レベルや科目、伸ばしたい技能によっても変わりますが、90分の授業でずっとシャドーイング練習は辛いと思います。

授業の最初の5~10分をシャドーイング練習にあてるだけの授業もあれば、しっかり学生の発表もさせ、コメントや評価をする場合は30分程度、割くこともあります。ケースバイケースです。

ただ、学生たちには毎日5分でいいので、自宅で練習をすることを勧めます(課題にします)。授業だけでは効果が現われにくいからです。毎日することに意味があることを伝え、5~10分、食後、就寝前など、できるだけ毎日の習慣にすることを勧めます。習慣化すると、学生自身が自分の変化に気づき、効果があることを実感するからです(課題にして、次の授業でチェックします)。

また、時間は一定に決めなくても、5分でも、気が向いたら20~30分でも、学生自身に任せればいいと思います。義務になって、嫌になるまで練習するのは、避けるべきです。

■シャドーイングと暗記の違い

暗記は自分のペースで自分のやり方で発音したり、自分の思い込んだ文法で覚えたりしますから、学生たちの発音のクセや文法の誤用(化石化)が頻出します。正しく書いてある教材でも、教材のCDがあっても、学生は間違って覚えることが多々あります。助詞や活用の間違い、発音(アクセントやイントネーション)は注意を向けなければ、気づきません。そして、最も困ることは学生たちがいったん覚えたものを矯正するのは、とても時間がかかって困難であるということです。

ですから、暗記させるのであれば、とにかくリスニングを繰り返し、その後、シャドーイングで徹底的にインプットと同じ正確さで練習させた後、暗記させるのがいいと思います。

Q: オンライン授業でシャドーイングをおこなうときの注意点をお聞きしたいです。
(回答者:古本先生)

オンライン授業は大別して二つに分けられます。一つは、あらかじめ収録された授業動画を見たり、学習管理システム(Learning Management System、以下LMS)にアップロードされた配布資料を見たりして、基本的に学習者が好きな時間に自分のペースで授業を受ける「非同期型」です。もう一つは、ZoomやMicrosoft Teamsなどのオンライン会議ツールを利用して学習者全員が同じ時間に授業を受ける「同期型」です。

どちらのオンライン授業でも大事なことは、教師が学習者にフィードバックすることです。学習者個人のシャドーイングの出来具合を教師がチェックする場合には、録音したシャドーイング音声をLMSに提出してもらったり、e-mail添付で送ってもらったりすることでチェックすることができます。また、オンライン会議ツールを使ってリアルタイムに一人ずつとオンラインで会ってチェックすることもできます。

それ以外に先生方が悩まれることがあるとすれば、「1. 同期型のオンライン授業中にどのようにシャドーイング練習をさせるか」ということと、「2. スマホ1台しか持っていない学習者の場合はどうすべきか」ということの二つかもしれません。

  1. 同期型のオンライン授業中にどのようにシャドーイング練習をさせるか
    ミュート/アンミュートの機能、画面(オーディオ)共有の機能、ブレークアウトルーム/メインルームの機能をうまく利用すれば、対面授業のときと同じようにシャドーイングを取り入れることができます。メインルームで学習者が個々にシャドーイングするときの声が互いに邪魔にならないようにするためには、教師がオーディオを共有してモデル音声を学習者全体に聞かせ、学習者はマイクをミュートにしたままシャドーイングするといいです。学習者同士でシャドーイングをし、チェックし合う場合には、ブレークアウトルームに分かれて行うといいです。
  2. スマホ1台しか持っていない学習者はどうすべきか
    スマホ1台だけで、シャドーイングのモデル音声を再生しながら、自分がシャドーイングする声を録音できるのかと疑問に思われる方がいらっしゃるかもしれません。私は「ハヤえもん」という音楽プレーヤーのアプリを学習者に勧めています。そのアプリ内の録音機能を使います。先生方がお住いの地域にもこれと同じ機能を搭載したアプリがあると思いますので、ぜひ探してみてください。

なお、2020年に開催されたワークショップで「オンライン授業にシャドーイングをどのように取り入れるのか」についてお話したことがあります。そちらの資料もぜひごらんください。

【参考資料】くろしお出版 オンライン ワークショップ「日本語教師のためのシャドーイング指導 ―『わかる』を『できる』に繋ぐために―」2020年9月12日(土)・10月17日(土)開催

●開催情報

■会場 オンライン(Zoomミーティング)
■日時 2024年2月17日(土)14:00-16:00
■参加費 無料

■講師
迫田久美子 先生 広島大学 森戸国際高等教育学院 特任教授、国立国語研究所 名誉教授
著書:『 日本語学習者コーパスI-JAS入門―研究・教育にどう使うか―』(2020, 共著, くろしお出版),『学習者コーパスと日本語教育研究』(2019, 共著, くろしお出版),『改訂版日本語教育に生かす 第二言語習得研究』(2020, アルク)など。

古本裕美 先生 長崎大学 留学生教育・支援センター 准教授
著書:『日本語教師のためのシャドーイング指導』(2019, 共著, くろしお出版)

講師から
日本語のテストで良い成績を示す学習者が必ずしも日本語が上手に話せるとは限りません。 それは、「理解する(わかる)」ことと「運用する(できる)」ことが異なる活動だからです。シャドーイングは、その「わかる」を「できる」に繋ぐ練習法として、古くから通訳訓練に利用されています。

今回は、国内外の日本語教師によるシャドーイング教材『シャドーイング もっと話せる日本語』の出版に際し、シャドーイングによる具体的な指導と評価に焦点をあてて、日本語指導におけるシャドーイングの活用法について考えてみましょう。

■予定内容
第一部 教材を理解しよう!
(1) 教材のねらい
(2) 教材のユニークな特徴

第二部 シャドーイングを実践しよう!
(1) 導入で大切なこと
(2) 指導とシャドーイング活用の工夫

第三部 シャドーイングを評価しよう!
(1) 評価の方法とフィードバック
(2) 学習者の感想

Q&A

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