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フランス語の話し言葉における舌打ち音の研究

森田美里[著]

定価
4,620円(4,200円+税)
ISBN
978-4-87424-852-2 C3085
発売日
2021/3/8
判型
A5
ページ数
264頁
ジャンル
言語学・英語学 ― 言語学専門
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紀伊國屋書店 丸善・ジュンク堂書店・文教堂

日本語では不快感を表す舌打ちと同じ音がフランス語では談話構成や聞き手目当てな「働きかけの機能」を持つことを明らかにする。また日本人フランス語学習者とフランス語話者間でコミュニケーション上の誤解が生じる原因も検討する。

【「序」より】
 Patterson & 大坊(2013)によると,それぞれの文化の中には,出来事や行動に関・・・(全文を読む)して共有されている暗黙の意味があり,それがスムーズなコミュニケーションの実現に役立っているという。しかし,文化に違いがある場合,共有される意味の少なさから,意思疎通がうまくいかず,誤解が生じることがあり,中でも,自動的になされる非言語コミュニケーションには,大きな認知努力が必要だと述べている。
 近年,観光やビジネスでフランスを訪れる日本人旅行者および在フランス日本人数は増加傾向にある。同時に,日本を訪れるフランス人旅行者ならびに留学生数も増加しており,異なる母語,文化を持った者同士がコミュニケーションをする機会も以前より増えている。そのような中で,あまり知られてはいないが,フランス語母語話者の「舌打ち音」が誤解やトラブルの原因となっている。ここでいう舌打ち音とは,日本社会で「舌打ち」と言われ認識されている音のことであるが,一般的に日本人が持つ舌打ちのイメージは「いらだちなどのネガティブな感情を表出する悪癖」である。子どもの頃から舌打ちは「行儀が悪い」,「相手を嫌な気持ちにさせる」ものであると言われて育った日本人は少なくなかろう。
(中略)
 しかしながら,フランス語母語話者が談話において発するこれらの舌打ち音は,日本社会で一般的にイメージされる相手に対するいらだちの感情の表出としての「舌打ち」ではなく,それとは異なった用法,機能があるというのが本研究における筆者の主張である。これまで単なる個人の悪癖や雑音としか捉えられてこなかったからか,ほとんど研究されていないが,フランス語の舌打ち音を言語学的観点から検証し,明確に記述することで,今後の日本人とフランス語母語話者間の良好な人間関係の構築に寄与できればと思っている。

関連情報
【関連サイト】
資料9, 10データダウンロードページ
https://www.9640.jp/books_852/

【書評・紹介】
『cahier』2022年3月号(第29号、日本フランス語フランス文学会)に書評が掲載されました。評者は安藤博文(静岡大学・フランス語音声学)。
「タイトルから見ても画期的であるが、読み進めてみると、実に綿密な調査に基づいて行われた研究であり、そしてコミュニケーションに対しても示唆に富んだ内容であることがわかる。」「このように本書は、教育への応用までが考えられた類いまれなる良書ということができる。」
http://www.sjllf.org/cahier/?action=common_download_main&upload_id=2532
目次


第1章 研究の対象・目的・方法
1.1 研究の対象と目的
1.2 研究方法
1.3 リサーチクエスチョン
1.4 本書の構成

第2章 舌打ち音―先行研究およびフィラーとの関係―
2.1 はじめに
2.2 舌打ち音
2.2.1 日本語の舌打ち音
2.2.2 フランス語の舌打ち音
2.2.3 他言語の舌打ち音
2.2.4 まとめ
2.3 フィラー
2.3.1 日本語のフィラー
2.3.1.1 山根(2002),中島(2011)
2.3.1.2 小磯,西川,間淵(2006)
2.3.1.3 川田(2008)
2.3.2 フランス語のフィラー
2.3.3 本研究におけるフィラーの定義

第3章 研究目的別調査
3.1 はじめに
3.2 調査1:ストーリーテリングに現れる舌打ち音調査
3.2.1 調査目的
3.2.2 調査対象
3.2.3 調査方法
3.2.4 調査結果と考察
3.3 調査2:地下鉄での行き方案内に現れる舌打ち音調査
3.3.1 調査目的
3.3.2 調査対象
3.3.3 調査方法
3.3.4 調査結果と考察
3.4 調査3:フランスとベルギーのメディアに現れる舌打ち音調査
3.4.1 調査目的
3.4.2 調査対象
3.4.3 調査方法
3.4.4 調査結果
3.5 調査の分析とまとめ
3.5.1 舌打ち音の用法に関する仮説
3.5.2 情報処理あるいは言語表現処理
3.5.3 境界設定
3.5.4 発見
3.5.5 発話権の取得/保持
3.6 まとめ

第4章 ESLOコーパスを用いた舌打ち音調査
4.1 はじめに
4.2 ESLOコーパスとは
4.3 コーパスを用いた舌打ち音研究の前に
4.3.1 コーパスの選択と使用について
4.3.2 舌打ち音の検索の仕方と抽出
4.3.3 研究対象外の [bb]
4.4 調査4:舌打ち音の社会言語学的調査
4.4.1 調査目的
4.4.2 調査対象
4.4.3 調査方法
4.4.4 調査の結果と考察
4.5 調査5:舌打ち音の社会的価値と解釈に関する調査
4.5.1 調査目的
4.5.2 調査対象
4.5.3 調査方法
4.5.4 調査の結果と考察
4.5.4.1 大学生への調査の結果と考察
4.5.4.2 研究者への調査の結果と考察
4.6 調査6:舌打ち音の通時的調査
4.6.1 調査目的
4.6.2 調査対象
4.6.3 調査方法
4.6.4 調査の結果と考察
4.7 まとめ

第5章 コーパスにおける舌打ち音の出現と頻度
5.1 はじめに
5.2 調査対象
5.3 調査方法
5.4 調査の結果と考察
5.4.1 モノローグの文脈における分布
5.4.2 ダイアローグの文脈における分布
5.5 まとめ

第6章 舌打ち音の用法と機能
6.1 はじめに
6.2 話者の情報処理および言語表現処理状況の表出機能
6.2.1 語あるいは表現の検索
6.2.2 内容検索
6.2.3 ためらい
6.3 シンタックスによって調整された談話構成
6.3.1 境界設定
6.3.1.1 話題転換
6.3.1.2 開始
6.3.1.3 終了
6.3.1.4 順序(時間 / 言説)
6.3.2 展開
6.3.2.1 対立
6.3.2.2 提示表現
6.3.2.3 説明
6.3.2.4 訂正
6.3.2.5 添加
6.3.2.6 結論
6.4 働きかけの機能
6.4.1 判断(同意/否定)
6.4.2 質問/答え
6.4.3 確認
6.4.4 婉曲語法
6.5 まとめ

第7章 フランス語話し言葉における舌打ち音とは?
7.1 フィラーとの比較
7.2 舌打ち音の特徴
7.3 まとめ

第8章 日本人フランス語学習者と舌打ち音
8.1 はじめに
8.2 調査7:学習者の渡仏前後の舌打ち音認知調査
8.2.1 調査目的
8.2.2 調査対象
8.2.3 調査方法
8.2.4 調査結果
8.2.5 結果の分析と考察
8.2.6 仮説
8.3 調査8:フランスの日本人留学生の舌打ち音認知調査
8.3.1 調査目的
8.3.2 調査対象
8.3.3 調査方法
8.3.4 調査結果の分析と考察
8.4 調査9: フランス長期在留邦人の談話における舌打ち音調査
8.4.1 調査目的
8.4.2 調査対象
8.4.3 調査方法
8.4.4 調査結果の分析と考察
8.5 外国語教育への提言
8.6 まとめ

第9章 結論

あとがき
参考文献
資 料
索 引
著者紹介
森田美里(もりた・みさと)
岡山県生まれ。
2014年 神戸大学国際文化研究科博士前期課程修了(学術修士)。
2018年 オルレアン大学(フランス)人間社会学研究科博士後期課程修了(言語科学博士)。
同年、大阪府立大学人間社会学研究科博士後期課程修了(言語文化学博士)。
2005年よりフランスの大学、国内の日本語学校および大学での日本語教育に従事。
現在、京都外国語大学外国語学部フランス語学科専任講師、龍谷大学グローバル教育推進センター非常勤講師。