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新刊

トゥッリオ・デ・マウロの民主的言語教育

イタリアにおける複言語主義の萌芽

西島順子[著]

定価
3,630円(3,300円+税)
ISBN
978-4-87424-964-2 C3037
発売日
2024/2/9
判型
A5
ページ数
192頁
ジャンル
言語政策 ― 言語政策専門
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紀伊國屋書店 丸善・ジュンク堂書店・文教堂

1970年代のイタリアにおいて、言語学者トゥッリオ・デ・マウロは現代の複言語主義に類似する民主的言語教育を提唱した。CEFRによって複言語主義が提言される20年以上も前のイタリアで、なぜそのような教育が創出されたのか、思想の起源や概念、教育実践を解明し、その意義を明らかにする。

■まえがきより
筆者がCEFRや複言語・複文化・・・(全文を読む)主義という言葉を始めて耳にしたのは、イタリアで日本語を教えていた2005年頃であった。国際交流基金がその動向をとらえ、日本語教育への応用に向けて議論が高まり始めていたが、当時、筆者はその噂を一教師として聞いた程度で、まさか自身がそれに傾倒し研究を行うとは想像もしていなかった。
しかし帰国後も、日本において次第に存在感を増してゆくCEFRについて、たびたび目にし、耳にすることとなった。日本語教育に限らず、外国語教育においてこれほどCEFRが着目されたのは、言語教育に携わる者であれば、だれもが日々経験する感覚的なものが、そこに言語化されていたからではないか。複言語・複文化主義や共通参照レベル、能力記述文、ポートフォリオ、自己評価など、そこに記された教育思想や教育的ツールはいずれも、言語教師にとって合点がゆくものだった。
筆者もそう感じた一人であった。日本語教育に携わるなかで「言語を学ぶことは我々に何をもたらすのか」と考えるようになり、その答えが複言語主義にあるような気がしたのだ。自身が学校教育で英語を学び、その後イタリア語を学んだこと、また日々接する留学生が第2、第3外国語として日本語を学ぶこと。これらは各々の人生、あるいはその社会に何をもたらすのか。言語を学ぶ根源的な意義を知りたいと考えたのである。
(中略)研究を始めてからは、イタリア固有のplurilinguismoの解明に没頭し、民主的言語教育の提言者トゥッリオ・デ・マウロの教育思想に魅了された。研究中、デ・マウロの言説には何度も心を震わされた。
執筆を終え、本書では筆者が抱いた疑問への解答、つまり「言語を学ぶことは我々に何をもたらすのか」という問いへの答えを少なからず示せたのではないかと考える。実のところ、デ・マウロが名付けた「民主的言語教育」という言葉にその答えは集約されていると感じている。本書によってデ・マウロの教育思想や業績を日本の読者に届けられることを心から嬉しく思うと同時に、読者が言語教育の意義を共に感じ、考えてくださることを心から願っている。

【目次】
序論 民主的言語教育の研究意義
第1章 近現代イタリアにおける言語状況と言語政策の展開
第2章 イタリアにおけるplurilinguismoの歴史的変遷
第3章 トゥッリオ・デ・マウロの構想したplurilinguismo
第4章 民主的言語教育における複言語教育の実践
結論 民主的言語教育の教育的意義
付論 トゥッリオ・デ・マウロについて
付録 民主的言語教育のための10のテーゼ(Dieci tesi日本語訳)

関連情報

目次
序論 民主的言語教育の研究意義
1. 問題の所在
1.1 1970年代のイタリアにおける言語教育
1.2 民主的言語教育とは
2. 問題提起
2.1 先行研究からの提起
2.2 研究の課題
3. 研究手法と本書の構成

第1章 近現代イタリアにおける言語状況と言語政策の展開
1. イタリアにおける個別言語と言語変種の多様性
2. 言語政策と言語教育政策
2.1 イタリア王国統一期(1861年~)
2.2 第一次世界大戦からファシズム政権期(1900年代~)
2.3 第二次世界大戦後(1945年~)
3. 1970年頃の言語状況
4. まとめ

第2章 イタリアにおけるplurilinguismoの歴史的変遷
1. 民主的言語教育に見られるplurilinguismo
1.1 複言語主義の多義性
1.2 民主的言語教育と複言語主義との類似性
2. イタリアにおけるplurilinguismoの史的議論
2.1 イタリアにおける史的研究
2.2 史的研究の考察
3. イタリアにおけるplurilinguismoの形成過程
3.1. イタリアにおけるplurilinguismoの創出(1950年代)
3.2 文芸批評から言語学へ(1960年代) 
3.3 言語学から言語教育へ(1970年代) 
4. まとめ

第3章 トゥッリオ・デ・マウロの構想したplurilinguismo
1. デ・マウロのplurilinguismoの概念
1.1 plurilinguismoへの着想
1.2 plurilinguismoの構想
1.3 デ・マウロ自身によるplurilinguismoの集成
2. デ・マウロのplurilinguismoの由来とその展開
2.1 言語学研究を起源とするplurilinguismo
2.2 政治思想を起源とするplurilinguismo
2.3 政治思想を背景とした言語教育の構想
3. まとめ

第4章 民主的言語教育における複言語教育の実践
1. 1970年代以降の教育実践に関する先行研究
2. 複言語教育の形成過程
3. 民主的言語教育における教育実践
3.1 Parlare in Italia(De Mauro, 1975c)に見られる教師養成
3.2 Lingua e dialetti(De Mauro & Lodi, 1979)に見られる教授法
3.3 Teoria e pratica del glotto-kit: Una carta d’identità per l’educazione linguistica(Gensini & Vedovelli, 1983)に見られる評価指標
3.3.1 言語能力評価指標:glotto-kit 
3.3.2 glotto-kitの有用性と理論
3.3.3 デ・マウロのglotto-kitの認識
3.3.4 glotto-kitが内包するplurilinguismo
4. まとめ

結論 民主的言語教育の教育的意義
付論 トゥッリオ・デ・マウロについて
付録 民主的言語教育のための10のテーゼ(Dieci tesi日本語訳)
参考文献
索引
著者紹介
西島 順子(にしじま よりこ)
立命館大学大学院言語教育情報研究科修士課程修了、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士(人間・環境学)。専門は外国語教育、日本語教育、言語政策。同志社大学、同志社女子大学嘱託講師などを経て、現在、大分大学教育マネジメント機構 国際教育推進センター講師。
著書に『複言語教育の探究と実践』(共著:第5章「イタリアの言語教育政策に見るpluringuismoと複言語主義−イタリア人生徒と外国人生徒の教育政策の比較から−:くろしお出版,2023)、論文に「近代イタリアにおける言語状況と言語政策の展開:トゥッリオ・デ・マウロの民主的言語教育の創出まで」『日伊文化研究』58(2020)など。2023年に第24回言語政策学会研究大会発表賞受賞。