東京語におけるアクセント句の形成

東京語におけるアクセント句の形成

実験及びコーパスによるdephrasingの分析

全美炷[著]

定価
4,070円(3,700円+税)
ISBN
978-4-87424-739-6 C3081
発売日
2017/10/10
判型
A5
ページ数
248頁
ジャンル
日本語学 ― 日本語学専門
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語には、語、句、節などさまざまな単位があり、それらが階層構造をなしている。階層構造の解釈次第で、語の並びが同一の文でも多義性が生じることはよく知られている。書き言葉において句読点が必要とされるのは、書き手の意図した構造についてのヒントを読み手に伝えるためである。
話し言葉には句読点は存在しないが、書き言葉と同様、発話の構造を伝・・・(全文を読む)達するためのヒントが音声の特徴のなかに含まれているはずだと考えるのは自然な発想であろう。そのような特徴としてしばしば指摘されるものにイントネーション(音調)がある。
イントネーションの形に影響する要因は非常に複雑であり、狭い意味での言語学的な情報の他に、話し手の意図や態度など、いわゆるパラ言語情報や感情も含まれる。言語学的な要因に限っていうと、まずイントネーションの形成を考えるうえで重要な点の一つは、発話が韻律的にいくつの句に区切られるのかという問題である。
これは、発話全体に注目して、それをいくつの句に区切るのかという観点から分析することもできれば、個々の文節に注目して隣接する文節がひとつの句にまとまるかまとまらないかという観点から分析することもできる。本研究で対象とするdephrasingという現象はこのうち後者のアプローチに関わるものである。
(中略)
本研究は、このようなdephrasingの現象がどの程度の頻度で出現しているかを把握し、どのような環境で生じるかを検討するものである。(序論より)

関連情報

目次
第1章 序 論
1.1 本研究の目的
1.2 東京語の音調型
1.3 アクセント句(AP)
1.4 Dephrasingとは
1.5 本研究の特徴

第2章 研 究 方 法
2.1 Dephrasingの認定基準
2.1.1 アクセント核
2.1.2 句頭の上昇
2.2 資料
2.2.1 日本語話し言葉コーパス(CSJ)
2.2.1.1 概要
2.2.1.2 Dephrasingデータの抽出
2.2.1.3 CSJのデータセット
2.2.2 実験
2.2.2.1 実験文
2.2.2.2 話者
2.2.2.3 録音
2.3 分析方法

第3章 2文節の合計モーラ数及び発話速度
3.1 導入
3.2 先行研究
3.2.1 Poser(1984)
3.2.2 Kohno(1980)
3.2.3 Selkirk and Tateishi(1988)
3.3 2文節の合計モーラ数
3.3.1 方法
3.3.2 分析
3.3.3 議論
3.4 発話速度
3.4.1 研究方法
3.4.2 分析
3.4.3 議論
3.5 まとめ
3.5.1 2文節の合計モーラ数の効果
3.5.2 発話速度の効果
3.5.3 今後の課題

第4章 修飾関係及び統語機能
4.1 導入
4.2 修飾関係
4.2.1 先行研究
4.2.1.1 McCawley(1968)
4.2.1.2 Poser(1984)
4.2.1.3 Kohno(1980)
4.2.1.4 郡(2004, 2008, 2012)
4.2.1.5 問題点
4.2.2 修飾とフォーカスの相関に関する研究
4.2.2.1 田窪(1987)
4.2.2.2 安井(1983)
4.2.2.3 金水(1986)
4.2.3 研究方法
4.2.3.1 CSJからのデータ抽出
4.2.3.2 実験資料
4.2.4 分析
4.2.4.1 CSJの分析
4.2.4.2 実験
4.2.5 議論
4.2.5.1 CSJと実験資料の結果比較
4.2.5.2 統語的フォーカス
4.3 統語機能
4.3.1 問題提起
4.3.2 研究方法
4.3.3 資料
4.3.4 分析
4.3.5 議論
4.4 まとめ
4.4.1 修飾関係の影響
4.4.2 統語機能の影響
4.4.3 おわりに

第5章 アクセント型の組み合わせ
5.1 導入
5.2 先行研究
5.2.1 宮田(1927, 1928)
5.2.2 McCawley(1968)
5.2.3 Kohno(1980)
5.2.4 Poser(1984)
5.2.5 Selkirk and Tateishi(1988)
5.2.6 Kubozono(1993)
5.2.7 Sugahara(2002)
5.2.8 問題点
5.3 研究方法
5.3.1 CSJからのデータ抽出
5.3.2 実験資料
5.4 分析
5.4.1 CSJの分析
5.4.2 実験
5.5 議論
5.5.1 CSJ資料と実験資料の結果比較
5.5.2 アクセント型の組み合わせの影響
5.6 まとめと展望

第6章 フォーカス
6.1 導入
6.1.1 Information focusとidentificational focus
6.1.2 フォーカスとイントネーション
6.2 先行研究
6.2.1 Poser(1984)
6.2.2 Pierrehumbert and Beckman(1988)
6.2.3 Sugahara(2002)
6.2.4 問題点及び研究方法
6.3 実験
6.3.1 実験文
6.3.2 録音
6.3.3 方法
6.4 分析
6.4.1 フォーカスの影響
6.4.2 アクセント型の組み合わせの影響
6.4.3 修飾関係の影響
6.4.4 モデルの検討
6.5 議論
6.5.1 先行研究との結果比較
6.5.2 フォーカスの効果:2文節の前部にフォーカスがある場合
6.5.3 フォーカスの効果:2文節の直後の文節にフォーカスがある場合
6.6 まとめと今後の課題

第7章 統語境界及び2文節の位置
7.1 導入
7.2 統語境界の有無
7.2.1 先行研究
7.2.2 研究方法
7.2.3 分析
7.2.4 議論
7.3 2文節の位置
7.3.1 研究方法
7.3.2 分析
7.3.3 議論
7.4 まとめ
7.4.1 統語境界の効果
7.4.2 2文節の位置の効果
7.4.3 今後の展望

第8章 レジスター及び話者の社会的属性
8.1 導入
8.2 レジスター
8.2.1 先行研究
8.2.2 研究方法
8.2.3 分析
8.2.3.1 レジスターとdephrasingの関係
8.2.3.2 レジスターと発話速度の関係
8.2.4 議論
8.3 話者の社会的属性
8.3.1 先行研究
8.3.2 研究方法
8.3.3 分析
8.3.3.1 話者の性別による影響
8.3.3.2 話者の学歴による影響
8.3.3.3 話者の年齢による影響
8.3.4 Dephrasing率の年齢差と発話速度の年齢差
8.4 まとめ
8.4.1 レジスターの効果
8.4.2 話者の性別,学歴及び年齢の効果
8.4.3 残された課題

第9章 統計モデルの構築
9.1 導入
9.2 AICによるモデル選択
9.3 モデリング:CSJ資料
9.3.1 2文節の合計モーラ数と話者の年齢の交互作用
9.3.2 発話速度とレジスターの交互作用
9.3.3 発話速度と話者の年齢の交互作用
9.3.4 レジスターと話者の年齢の交互作用
9.3.5 予測モデルの正答率
9.4 モデリング:実験資料
9.4.1 修飾関係とアクセント型の組み合わせの交互作用
9.4.2 予測モデルの正答率
9.5 まとめ
9.5.1 モデリング 1 (CSJ資料)
9.5.2 モデリング 2(実験資料)
9.5.3 今後の展望

第10章 結 論
10.1 本研究のまとめ
10.2 結論
10.3 今後の課題

引用文献
付録1
付録2
付録3
謝 辞
索 引
著者紹介
全 美炷(じょん みじゅ)
一橋大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。博士(学術)。
現在,韓国外国語大学非常勤講師,仁川大学非常勤講師。
専門は音声学(日本語,韓国語)。
おもな論文に,
「『日本語話し言葉コーパス』を用いたdephrasing生起要因の分析―修飾関係及びモーラ数の効果―」(『音声研究』18(3), 2014)
「東京方言におけるdephrasingの生起要因―統語機能,モーラ数及び発話速度による影響―」(『言語社会』9, 2015)
「CSJを用いた発話速度及び話者の年齢によるdephrasing生起の分析」(『一橋日本語教育研究』4, 2016)
「東京方言の統語境界におけるdephrasing生起の分析」(『日語日文學研究』96(1), 2016)
などがある。